「最期まで、わたしらしい在り方を試されている」進行性の難病と、ステージ4のがんを抱えながら食のバリアフリーに挑む46歳“車いす女将”に密着
京都・与謝野町にある京都府立医科大学附属北部医療センターは、京都府の最北部・丹後地域の中核病院です。この病院で週に1回、言語聴覚士として働いているのは笠井幸子さん(46)。発話や、食べ物を噛んで飲み込む“嚥下”が難しい患者のリハビリを担当しています。
一緒に歌ったりおしゃべりしたりと、笠井さんのリハビリはいつもにぎやか。「自分自身が患者という立場で病院に行くこともある」からこそ、「本当のところでその人が望んでいること」をしっかりくみ取りたいと話す笠井さんは、「シャルコー・マリー・トゥース病」という難病を抱えています。
足や手などの筋力の低下がゆっくりと進む進行性の神経疾患で、国内の患者数はおよそ1万人に1人とされている指定難病。笠井さんは6年前に転倒してから歩けなくなり、車いすで生活しています。
幼いころからみんなと同じように体を動かすことができなかった笠井さん。しかし好奇心は人一倍で、声で表現することに興味を抱いてアナウンスを学ぶなか、バイト先の病院で出会った言語聴覚士という仕事に「これだ!」と天職を見いだしました。
そんな笠井さんにはもう一つの顔があります。それは、京丹後市で80年以上の歴史を持つ庶民的な和食処「かさい食堂」の女将。看板メニューは500円の“巻き寿司”で、「初めて食べたとき、“こんなおいしい巻き寿司食べたことない!”って思った」と笠井さんも絶賛する自慢の一品です。
3代目店主で夫の健治さん(61)との縁をつないだのも、実はこの“巻き寿司”。笠井さんが近くの病院で言語聴覚士として働き始めた28歳のころ、おいしい“巻き寿司”に惹かれて昼食をとりにくるうちに仲良くなり、交際がスタート。5年後、33歳のときにゴールインしました。
【動画】常に積極的、やりたいことがいっぱいでアクティブな笠井さんを「できる範囲で手伝っていきたい」と健治さん
結婚後、夫婦で始めたのが「やわらかメニュー」。肉や野菜をペースト状にするなどやわらかく加工した丼物やお寿司で、噛んで食べることが難しくなった人もそうでない人も、みんなが一緒においしく食べられることを目指しました。
2022年には団体「Seat Table」を立ち上げ、各地でやわらかメニューの料理教室を開催。「嚥下食になっても『かさい食堂』の味だと自分が納得して出せるまでには時間がかかりました」と、笠井さんは開発の苦労を振り返ります。
ところが昨年6月、笠井さんは大きな試練に直面。ステージ4の乳がんの宣告を受けたのです。このとき、残された命を初めて意識した笠井さんの心には「今を大事にしよう。私はまだまだできることがある」との思いがわき上がりました。
「最期まで、わたしらしい在り方を試されているんだ」。そうSNSに綴った笠井さんは、新たな挑戦に乗り出します。丹後の食材をふんだんに使った「やわらかメニュー」のフルコースを披露するイベントを計画。仲間と準備を進めました。
笠井さんを支える強力な助っ人は、京都市内の病院で調理師として働く辻秀治さん。嚥下食の調理法を伝える教室を15年前から各地で開いてきた、笠井さんにとって「師匠」にあたる存在です。そんな辻さんも「何でもやり過ぎるぐらいアクティブで積極的」と笠井さんの行動力には舌を巻いています。
そうして迎えたイベント当日、市内のレストランには、障害のある人もない人も、さまざまな年齢の人たちが集まりました。京丹後産のイチゴのジュースに始まり、ローストビーフ、サワラのムース仕立て、ばら寿司も! おいしく、見た目も美しいフルコースに参加者の笑顔があふれます。
食べることは生きること。「みんなが同じ目線で、同じ食事をして普通に会話をして、笑顔で過ごしてもらえる時間が作れたら」と話す笠井さんの挑戦は、まだまだ続いています。
46歳“車いす女将”の挑戦は、8月4日(火)放送の『newsおかえり』(ABCテレビ 毎週月曜〜金曜午後3:40〜)で紹介しました。




















