「ABCお笑いグランプリ」マヂカルラブリー・野田クリスタルが大絶賛したアレ? 「今、一番獲りにくい賞レース」と語る審査員は誰?
『第46回ABCお笑いグランプリ2025』決勝が6月29日に生放送された。生放送直後、司会を務めた南海キャンディーズ・山里亮太、そして今年初めて審査員を務めたマヂカルラブリー・野田クリスタル、ミルクボーイ・駒場孝、ハナコ・秋山寛貴にライターでラジオパーソナリティの鈴木淳史が話を聴いた。
まずは前回、山里さんと駒場さんから想像以上に熱い想いを聴けたが、今回は、ずっと東京で活動されてきた野田さんと秋山さんにお話を聴いていく。こちらも想像上に熱い想いを聴けたのだが、それは東京芸人が大阪のテレビ局であるABCテレビに抱く熱い想いだった。
―他の賞レースでも審査員を経験されていますが、「ABCお笑いグランプリ」の審査員を務められての率直な感想からお願い致します。
野田『コントと漫才とピンが一緒に競いあっているんで、本来は審査しようないんです。しかも(ファーストブロックは)順位をつけて同点が無いんで。悩む度合で言えば一番悩む大会かも知れないです。点数審査の場合は、最悪同点に逃げることもできるので。この大会はそこが逃げられないんで、かなり難しいです。また、その解決法も無いですから。例えばフースーヤとかが屋がいるCブロックは、後から聞くと審査員全員が悩んだらしいんですよ。僕は、かが屋を1位にしましたけど、厳密に言うとコントで一番おもしろかった1位と、(フースーヤは)漫才で一番おもしろかった1位なんで、どっちが上かと言われると、結局は順位をつけましたけど、今でも同点だと思っています。そりゃ、(順位をつけるのは)無理、無理。あくまで大会のシステム上の順位であって、お笑いとしての順位では無いので』
―野田さんが御自身のYouTubeで、「ABCテレビとは『M-1』時代から熱い関係性があるので、今回の審査員も断れなかった」と話されていたのが、とても心に残っています。
野田『断りづらいです、非常に断りづらいです(笑)。これ以上、(自分の仕事に)審査員を増やしてもという状況だったので、正直このタイミングで「ABCお笑いグランプリ」がくるかと。これは断れんなとはなりましたね。ABCとは(M-1)優勝までのプロセスが色々あって、僕らを贔屓するとかでは無く、ずっと観てくれていたという感覚なんです。恥と成長どっちも観てくれているので。そういう意味では断れんとはなりましたね』
―色々な賞レースがある中で、ABCテレビが手掛ける賞レースの特徴などはありますでしょうか。
野田『他の賞レースを下げるわけでは無いんですけど、おそらく「M-1」という賞レースを長くやって、試行錯誤した経験値があるがゆえに、こちらが審査する上で1ミリもストレスが無いんです。全部が揃っているというか。ネタの見え方も良いし、生放送中も言ったんですけど、審査をするパッドのソフトのクオリティーが何故か高いっていう。極端な話、(得点入力パッドは)審査が出来ればいいだけで、他の人に見せるものじゃないから、別にどう作ったっていいのに、ちゃんと画面背景があったりとか、俺らをおもしろがらせるようなデザイン性の高さがある。他の賞レースってボタンを押すだけとかなんですよ。想像ですが、恐らく点数計算をアプリ内で解決しているからミスが無いんです。俺は、そうあるべきだと思うし。人の手で目視でやってないんで、変なトラブルが無いんです。そういう面でもABCは賞レースとして抜けてる部分があるなと』
―もしもの想定の話ではありますが、来年も審査員の依頼があったら、どうされますか。
野田『僕の審査がしっかりやれていたのか、ちゃんと評価して頂いて、来年も呼んで頂けるならば是非ともという感じです』
放送内でも審査するパッドがすごいという話は確かにしていたが、そこまで他の賞レースとの違いがあるということに心から驚いた。ABCテレビとの熱い関係性にも胸にぐっとくるものがあった。続いて今回、芸歴15年33歳という若さで審査員を務められたハナコ・秋山さんにも話を聴くことに。
秋山『芸歴15年、年齢は33歳で初審査員ということだったのですが、今回のファイナリストたちに結構同世代が多くいたので、僕に審査が出来るかなと迷ったんです。だけど、ハナコとして大型賞レースのファイナリストに初めて選んでくれたのも「ABCお笑いグランプリ」だったので、今回は飛び込ませてもらおうと。いやぁ、めちゃくちゃ悩みましたよ。自分が出ている時から誰が勝つか明確にわからない大会で、4組のブロックが終わった後に、「あれ?! どこだ勝つのは?! ここの組もあるし、ここの組もあるぞ?!」みたいな感じだったんです。当時も楽屋で、みんなザワザワ言いながら観ていた覚えがあります。今年も全体のレベルが上がっていましたし、自分がジャッジしないといけないというのは本当に悩みましたね。特に今回悩んだのはCブロック(ソマオ・ミートボール、フースーヤ、かが屋、ハマノとヘンミ)ですね。ジャンルフリーのメンバーが凄い出ていて、四者四様の感じが凄かったです。自分が2017年・2018年の決勝に出ていた時よりも、既に賞レースを獲っている人がゴロゴロいて、こんなんだったっけかなと! 今、「ABCお笑いグランプリ」が一番難しい賞レースになりつつあるなと。僕らもそうでしたけど、ここで決勝に行って、それを弾みに「M-1」や「キングオブコント」の決勝に行くみたいな登竜門だったのですが、今は、そこらを経験した奴らが腕試しに集まるみたいな凄い場所になっていますね』
―コント師だからこそコント師を観る時の厳しさなどはありましたか。
秋山『コントへの厳しさは無いですけど、テクニックとか、ここ作ったのは苦労しただろうなと、内面まで透けて見えるのはコントですね。あんまり目立たないけど凄いことやってるなとか、コントだとそういう気持ちはわかります。かが屋の2本目とか特別派手じゃないんですけど、凄く観たくなるシーンから始まるんです。一瞬で観てる方が「何や?!」と思ってしまう技は、同業者だからというか、同じコント師として「いいね!」「やるね!」ってなりました』
―優勝は漫才師のエバースでしたが、いかがだったでしょうか?
秋山『色んなしゃべくり漫才がありますけど、エバースって凄い想像の楽しさがあるというか、何でしょうね、あの快感は…。聴いていて絵が浮かんできておもしろくて。そして、(ネタを)外さないのも凄いんですよね。エバースは快感がありますね。気持ち良いくらいに笑った感じになりました』
―2012年から大阪芸人だけで無くて、東京芸人もエントリーできるようになりましたが、そのあたりについて想われるところはありますでしょうか。
秋山『めちゃくちゃありますね。我々もそのルール改正の恩恵を受けていますから。まずは「ABCお笑いグランプリ」が大きな目標なんで、ここを通んなきゃ始まらない感じがあったというか。ここのファイナリストになって、注目を受けて、ようやく若手芸人の仲間入りみたいなのが、当時からありましたね。大阪の、西の目の肥えたお客さんに認められたいみたいなのも強くありました。噂もありましたね、東京芸人が苦戦するとか。今の東京勢の勢いは想像していなかったです。東京でユニットコントを一緒に頑張っていたザ・マミィ、かが屋が、大阪の「ABCお笑いグランプリ」の舞台にいて、それを自分が審査をするというのは凄い不思議な感覚でした』
―もしもの想定の話ではありますが、来年も審査員の依頼があったら、どうされますか。
秋山『一旦、僕の審査へのダメ出しを冷静に聴きつつ、ちゃんとお役に立てたのかという反省諸々を踏まえた上で、是非機会を頂けるなら、また、あの審査員席に座ってみたいなとは思います。(ミルクボーイ)駒場さんとも隣でしゃべったんですけど、外から俯瞰で賞レースを観たら「考えさせられるな」って。自分だったらどう戦おうかという脳になるという刺激は、大変ありがたいですね。やはり(ファイナリストを)ライバルだと思って観ちゃいますから。最初は「凄いな」と普通に思うんですけど、その後、「凄いなと思ってるだけじゃ(芸人として)危ないだろう」となりましたね。2017年・2018年にファイナリストとして選んで頂いた時も、今回の審査員オファー頂いた時も、すごいのは何よりもABCさんの感覚の早さですよ。周りは褒めてないけどウチは買いますよみたいな期待を頂いた気がするので。そこはファイナリストに選ばれた色んな若手たちも凄い自信をもらっていると思いますね』
山里さん、駒場さん、野田さん、秋山さん全員がABCお笑いグランプリ、そしてABCへの熱い想いがあるからこそ、成立する司会と審査員という立場での関係性が深く知れたインタビューとなった。本当に気が早くて申し訳ないが、今から来年の「ABCお笑いグランプリ」が観たくて仕方ない。
『第46回ABCお笑いグランプリ2025』 決勝戦はABCテレビで生放送された。ABEMAでは8/31(日)まで配信中。
(取材・文/鈴木淳史)
鈴木淳史(すずき・あつし)
1978年生まれ。雑誌ライター・インタビュアー。ABCラジオ『真夜中のカルチャーBOY』(毎週土曜深夜2時~3時)ラジオパーソナリティ担当。雑誌『Quick Japan』『Meets』など執筆担当。
