脚本家・吉田恵里香 『虎に翼』の次に、何を書くか。そこから始まった動画配信者家族の物語――新ドラマ『もうパパ!』

ABCテレビの秋ドラマは、連続テレビ小説『虎に翼』(NHK)など数々のヒット作を手掛ける脚本家・吉田恵里香さんによる完全オリジナル作品『もうパパ!』(毎週日曜よる10時15分~、ABCテレビ・テレビ朝日系全国ネット)。仲良し家族の動画チャンネルを運営し、家族思いだが“優しさ”を履き違えて、子どもをコントロールする父(堤 真一)と、幼少期からネットミームとして注目されてきたが、親の呪縛から抜け出し自分らしい人生を切り拓こうとする娘(原菜乃華)を中心に描く、令和ならではのヒューマンファミリードラマだ。脚本家・吉田恵里香さんのインタビュー<前編>をお届けします。

――本作の企画はいつごろからスタートしたのでしょうか。
チーフ監督の池田さんとなんとなく話を始めたのは、NHK連続テレビ小説『虎に翼』(2024年)より前です。私が朝ドラをやることが決まって、その後に一緒にやれるものを考えました。まず興味を持ったのは、今の子どもたちは生まれたときから動画配信を見るのが当たり前だし、役者さんとはまた違う形で出る側の子もいる……ということ。最初は、動画配信でバズってしまった女の子の話を書こうかと考えたのですが、そこから親子の話になったのは、ファミリーチャンネルというのは家族経営のお店に近いなと感じ、動画配信をしている親子の関わりに興味がわいたのがきっかけです。

――多良山家の父・良詫(堤 真一)は、不登校になった6歳の娘・紀子を笑顔にしようと、動画サイト「タラちゃんねる」を開設。紀子は「怒りんぼ紀子ちゃん」としてバズってネットミームとなり誰もが知る存在に。物語は大学生になった紀子(原菜乃華)を中心に描かれます。多良山父子のキャラクターと配役に関しておきかせください。
紀子は表に立つ存在なので、真っすぐな子として描きました。でも、いろいろな気持ちを抱えていて、純粋なだけではない。なるべく地に足がついたキャラクターにしたくて、「陰」の役も「陽」の役も両方できる原菜乃華さんは本当にぴったりで演じてくださると知って本当に嬉しかったです。
良詫は逆に、地に足がつきすぎてしまうと物語が暗くなってしまう。父子の愛情のすれ違いを描くためにも、良詫のキャラクター作りには悩みました。彼なりに紀子を愛していることを貫かないとイヤな人になってしまうから、ポップさもありつつ現実と繋がっていることは意識しました。

――堤 真一さん演じる良詫は、コミカルですよね。
はい。堤さんは良詫をリアルすぎず、ポップな部分との塩梅が絶妙に、説得力を増す形で演じてくださっています。
――動画配信者という現代ならではの家族のベースと、その親子関係を描く、新しい形のファミリードラマだと思うのですが、吉田さんの考える「良いファミリードラマの要素」とは何でしょう。
これは時代と共に変化していくものと思いますが、現段階の私は「関係性の悪いところもちゃんと書くということ」と考えています。いいところだけでなく、美化しすぎない。そしてもうひとつは、希望の光を差すということ。仮にバッドエンドだったとしても、どこかに光は差したいと常に思っています。

――作中に「タラ飯」という食事が出てきますが、食事もファミリードラマの大事な要素ですか?
本作においては「いい家庭=いいご飯をちゃんと作る親」という非常に表面的なイメージを、ちょっとめくってみたくて、取り入れた部分が大きいです。作中に出てくる食事「タラ飯」も、良詫には企画なんですよ。お弁当を含めて3食全部見せるのは大変だけれど、良詫としては、自分がちゃんと父親をやっているというアピールの場でもある。そこは利用したいなと思って書いたシーンです。
――大学生になった紀子は、家族だけの世界から新たな人間関係を構築して、自分本来の姿が父の演出する日常にむしばまれている事実に直面し、父子関係に疑問を抱くようになります。そのきっかけとなるのが、大学の先輩・吉良陽日(岩瀬洋志)との出会いです。
陽日は、『花より男子』の花沢類のようにミステリアスだけど格好いいと、周りに思われたいと思っている子です。メッキが剥がれるという表現がありますが、色々な剥がれ方がある中で、自分で勝手に思い込んでいる「男らしさ」や「カッコ良さ」みたいなものから彼自身が卒業する姿を描いてみようと考えました。完璧さが剥がれていく過程で人の良さが滲み出てくる役です。ただカッコつけるだけではないキュートな部分も見せられたら……と思いました。岩瀬洋志さんにぴったりな役になったんじゃないかな。スカしている感じにはしたくなかった。不器用でもちゃんと相手のことを本当に考えている人を「カッコいい人」として書きたかったんです。

――今作には父子関係だけでなく、恋人、友人などさまざまな人間関係が出てきますが、吉田さんが人間関係を構築する上で大事にされていることは何ですか。
今回のテーマでもあるのですが、「どんなに親しくなっても、どんなに愛し合っていても、他人である」ということを大事にしています。他人という言葉が強く感じる方もいるとおもいますが、自分以外のことは分からなくて当たり前。完全に分かり合えることはない、ということを前提しないと、知らぬ間に相手の大切なものを踏みつけていることもあることをいつも肝に銘じています。ここ数年、特にそう感じますね。
「全部知りたい」「全部分かりたい」と思いがちですが、絶対に無理じゃないですか。なんなら自分のことすら分からない。その時の体調や、食べたものによっても気分は変わるし、前の日に言われたことを相手が覚えているかどうかもわからないじゃないですか。でも、分かろうと努力をすること自体が大事なのではないでしょうか。

――吉田さんが今回、挑戦したと思われることは?
日曜夜10時は、様々な年齢層の方が幅広く見てくださる枠。本来は、その枠にマッチした題材やテーマを選ぶべきなのですが、あえて配信者の物語を描くこと自体が挑戦でした。ドラマだと「迷惑系配信者」がよく取り上げられがちですが、一面だけ描くのは良くないところだと思っていたので、そうじゃない描き方をしたいというのもあります。配信者も決して楽な仕事ではないし、当たり前ですが「配信者も人間なんだ、何を言ってもいいわけではないよ」ということが見えてくればいい。配信者に対する知識が0から100になるというよりも、0だったものが1とか0.1になるような物語を作ることで、何かの「きっかけ」を作りたくて取り組みました。それが新しいかどうかは分かりませんが、配信者や親子の関係に寄り添ったものになったのかな……。
――視聴者にどのように受け止められるか、楽しみですね。
見る人によって「紀子と良詫は恵まれている」と思う方、「これがダメなの?」と思う方、あるいは「本当にかわいそう、ありえない」と思う方もいるでしょう。その人の生活や環境で受け取り方が変わると思うので、何かを話すきっかけになったら嬉しいです。

(後編へ続く)
『もうパパ!』は、ABCテレビ・テレビ朝日系列で毎週日曜よる10時15分放送。放送終了後、TVerにて見逃し配信。
取材・文/坂本ゆかり



