でんでん 憧れは名優・渥美清「弟子入りしようと思って、福岡からカバン3つぶらさげて行ったんだけど・・・」
桐谷健太主演のドラマ『いつか、ヒーロー』(ABCテレビ・テレビ朝日系列 毎週日曜夜10時15分)で大原要蔵役を演じているのは、映画『冷たい熱帯魚』などで知られる、でんでん。主人公の赤山誠司(桐谷)の世話を焼く謎の大家さん役を、これまでと違うアプローチで演じているといいます。今回のインタビュー前編では、本作への向き合い方や芸能界入りの原点、自身のヒーローなどについて聞きました。

——『いつか、ヒーロー』のオファーを受けたときは、どのように感じましたか。
年を取ってきたら、仕事を頂けるだけでうれしいんですよ。そこで、今やりたいことを惜しみなく出せるといううれしさもあるしね。
——桐谷健太さんとは共演経験があるそうですね。
主演の桐谷君とは、1年くらい前に他局のドラマで共演して「また一緒にやりたいね」と言っていたんですよ。それが、こんなに早く実現するなんて。お互い、うれしかったんじゃないかな?。
——林宏司さんの脚本を読まれての感想は?
これはちょっと、辛口の社会派ドラマでね。よくテレビで踏み込んだなと思いましたね。
——序盤ではブラック企業の話などが描かれています。
第3話のアパート経営の話なんかは、実際に事件として起きてましたからね。そのほかの話も、我々の年代からしたら、胸に突き刺さるようなものばかり。若い世代に残したいドラマだなと思うから、役者も責任持ってやらなきゃいけないなと。
——番組内では、大原は謎だらけの人物です。
少し先まで台本を読ませていただいたから、大体どういう人間かわかってきたんだけど。でも、自分でもよくわからない状態で演じるうちに、「俺って、こういう過去の持ち主なんだ」って、わかってくるように演じようと思っています。
——いつもはモデルを探して演じるそうですが、今回は?
モデルは、いつも探してますね。ただ今回は、台本のセリフから生まれてくるキャラを大事にしようと思って。
——実際に演じながら、「こういう役なんだ」とわかるところがありますか?
いや、わかっちゃうと、そういうキャラになっちゃうから、なるべくわからないようにしています。野球でいうと、広角打法。どこに弾が飛んでいくかわからない気持ちで演じようとしてますね。
——桐谷さんとの再共演はいかがですか。
彼はね、とっても素敵な人間だから、楽しいですよ。こっちが何をしようと、黙って、大きな懐で受け入れてくれる。「桐谷君はこうくるのか。じゃあ、こっちもこうしよう」と思わせてくれるから、すごい役者じゃないかな。彼は「また、でんでんさんが好きにやってんな」と思っているかもしれないけど(笑)。

——実際、どんなシーンを撮っているときに面白さを感じますか。
どこのシーンが楽しいとかじゃなくて、どのシーンでも、アイデアを持って、お互い探っていくような感じでね。それぐらいの気合でやってますよ。ダメが出るくらいまでチャレンジして、見る人が何かを感じるようなものを見つけていこうとしてる。
——かつてインタビューで、「このセリフはこう言おう」とアイデアを3つくらい考えて現場に行くとおっしゃっていました。今は?
大昔はそういうやり方だったんだけど、今は「これがいい」と思ったものを出す感じかな。最終的にそれがダメだったとしても、演出家の注文に応えられるように稽古はやってきてるつもりだから、大丈夫。演出に応えて、オッケーをもらったときは、それはそれで楽しいです。
——『いつか、ヒーロー』にかけて質問です。でんでんさんのヒーローといえる人は?
この世界に入ってから、見放さないで一緒に芝居をやってくれた人たちが、自分のヒーロー。まあ、俗に言う恩人っていうやつなんだけど。子供の頃のヒーローといったら、スポーツ選手では長嶋茂雄さん(読売ジャイアンツ)。役者でいうと、渥美清さん(『男はつらいよ』シリーズ)や植木等さん(『無責任男』シリーズ)。
——役者になりたいという気持ちは、子どもの頃からあったんですか。
そうです。最初はブラウン管の向こう、テレビの箱の中に入りたいなっていう感じでね。役者になりたいと思ったのは、高校のときかな。就職活動もしないで、役者になることしか考えてなかった。それで、渥美清さんに弟子入りしようと思って、福岡からカバン3つぶらさげて行ったんだけど、いらっしゃらなくて。
——その後、30歳で『お笑いスター誕生!!』(日本テレビ)に出演して、コメディアンになったと。
コメディアンというより、喜劇役者。ずっと憧れていたのは、渥美さんだったなぁ。今でも渥美さんなんだけども。
——渥美清さんの魅力は?
真似できないところじゃないですか。真似しようとしたって、できない魅力がある。よく「あの役者さんは背中でも芝居をしている」って言われるけど、渥美さんは背中だけでなく、360度芝居をしてる。どこから撮られても隙がないっていうのが、渥美さんの素晴らしいところだなと思う。
——でんでんさんも、360度のお芝居を目指してきたんですか。
いや、無理です、無理。なるべく人がやってないような芝居を目指して頑張ってるんだけど。……今、こうしてインタビューを受けて、話してること自体が苦手でね。「芝居とは何だ」なんて、改まってここで話すほどの役者じゃないと思ってるから。
——いや、ご謙遜を……。
いや、本当に。あっはっはっは(笑)。
(後篇に続く)

ドラマ『いつか、ヒーロー』は、ABCテレビ・テレビ朝日系列で毎週日曜よる10時15分放送。放送終了後、TVer、ABEMAで見逃し配信。
取材・文/泊 貴洋
ヘアメイク 小林真由〔MARVEE〕
