阪神淡路大震災の“復興のシンボル”とも言われた神戸市長田区の再開発事業。約30年かかってようやく完了しましたが、甲子園球場より広い商業スペースが大量に売れ残っています。市民からは「情けない」「神戸市から店舗を買う人はいない」といった声が漏れています。なぜ、こんなことになってしまったのでしょうか？

1995年1月17日に発生した阪神淡路大震災。そのわずか2か月後、神戸市は壊滅的な被害を受けたJR新長田駅の南側の再開発事業を決定。早急な計画に住民から反対の声が上がるなか、事業は密室の会議で決まってしまいました。

再開発の内容は、新長田駅から地下鉄・駒ヶ林駅まで1駅の区画、20ヘクタールの土地と建物を神戸市が買収し、ビルを建てて店舗やマンションなどを販売するというもの。2279億円もの費用をかけた巨大な“公共事業”でした。

事業決定から約30年で、建てられたビルは44棟。ビルの中には、甲子園球場の1.7倍の広さにあたる約6万7000平方メートルもの商業スペースが造られましたが、約6割の3万9000平方メートルが売れておらず、市が所有したままです。

2020年、神戸市は初めて再開発事業を検証しました。目抜き通りの商店街の両側にズラリと連なる再開発ビル。商業スペースは、その地下1階から地上2階の3フロアに広がっていますが、地下と2階のほとんどの店舗が売れていません。

そして、開発最初期の1999〜2002年に完成した建物にも多くの売れ残りが。つまり、初期にできた店舗さえ売却できていないのに次々とビルを建て、店舗を造り続けたのです。神戸市は検証報告書で「大幅な建築計画を見直すことは困難だった」「行政内部でブレーキをかける者はいなかった」と振り返っています。

いまだに売却できず、神戸市が所有している商業スペースはどのように使われているのでしょうか？再開発ビルの店舗を購入したオーナーで、管理組合の理事長も務める前田裕一郎さんに聞きました。

再開発地区のほぼ中心にある「アスタくにづか1番館」。1階の店舗は半分近くが神戸市の所有ですが、その多くは賃貸され、訪問看護や福祉の事業所、ネイルサロンなどが営まれています。そんななか、商店街の入り口の“一等地”にある、神戸市所有の貸し店舗はシャッターが閉まったまま。テナントが定着せず、出店と撤退を繰り返しているそうです。

【動画】人通りが少ない再開発地区。日中の歩行者は、高齢者が目立ちます。

「物を売るというエリアではなくなってきている」と前田さん。売れ残る商業スペースの9割以上が貸し出されていますが、行政や福祉の事業所が増え、商店は減少しています。

再開発ビルでの商売はなぜ難しいのか？ その一因を教えてくれたのは、神戸市所有の空き店舗を稽古場として借りている「劇団どろ」代表の合田幸平さん。ひと月に9万3400円を支払っていますが、驚くのはその内訳です。

劇団の稽古場という特殊な事情や、ビル２階の一番奥という立地条件もあり、家賃は1万1000円。一方、管理費は8万2400円と家賃の7倍以上です。管理費とはビルの共用部分にかかる費用ですが、どうしてこんなに高いのでしょう？

神戸市が再開発でこだわったのが“3層プロムナード”。地下1階から地上2階までの3層をショッピングフロアにし、歩行者を回遊させるのが狙いでした。そのため、エレベーターやエスカレーター、遊歩道などがあちこちにあり、維持費や清掃費などを含む管理費が割高なのです。

再開発ビルの管理費は、どのぐらいなのか？
ＡＢＣテレビの取材に、神戸市は、新たな事実を明らかにしました。

その事実とは、
再開発ビルの中で、神戸市が所有し賃貸している「全ての商業スペース」について。
１ヵ月あたりの「家賃の総額」は、４２４０万円ですが、「管理費の総額」は、２１７０万円。
なんと、家賃とは別に、家賃の５割を超える管理費が徴収されていることが、わかりました。

割高な管理費が負担になり、「苦しくなって（商売を）やめていく人がいっぱいいるんだと思います」と合田さんは話します。

高齢化と人口減少の時代。客が減り続けているという再開発ビル。そんななか、去年秋には44棟目にして再開発事業計画の最後となるビル「新長田キャンパスプラザ」が完成しました。

およそ30年をかけた新長田復興再開発事業はこれで終結しましたが「ビルを建てて終わるのではなく、商売が成り立つようなビルに改善してほしい」との声も。街の身の丈に合った復興のまちづくりは、とても終わったとは言えません。

新長田復興再開発事業の“今”は、1月14日（火）の『newsおかえり』（ABCテレビ 毎週月曜〜金曜午後3:40〜）の特集コーナーで放送しました。