「Aぇ! group佐野晶哉、久保田紗友の空気感を映像に・・・」気鋭の監督陣が明かす『離婚後夜』撮影秘話
いよいよ最終盤を迎えた佐野晶哉主演ドラマ『離婚後夜』。佐藤快磨さん、川和田恵真さん、多賀公英さんへのインタビュー後編では、ドラマ全話を振り返っていただいてのお気に入りシーン、また3人が所属する映像制作者集団「分福」のエピソードなどのお話も。
――お気に入りのシーンについてお聞かせください。
多賀 第5話、伊織(佐野晶哉)のベッドに座って香帆(久保田紗友)が幼い頃から本が好きだった話や、伊織が将来の話をするシーンです。演出したいシーンでもあったので、思い入れがすごくあります。脚本では“伊織が手を差し出して、香帆がためらいがちに手を握る”んですが、二人の心が確かに動いたことが伝わってくる動きになっていて。自然体の伊織と香帆の空気感に包まれたシーンになりました。
川和田 第6話の水族館での“初デート”のシーンは撮影前から楽しみにしていました。水槽の中とはいえ、魚たちは自由に泳ぐので画作りをする上では予想できない環境。でも、お二人はその場でしかできない新鮮な表情をたくさん見せてくださり、初デートの初々しい空気感が映像に収められたと思っています。
もうひとつは第8話のラスト、置き手紙を残して家を出た香帆を伊織が追いかけて走るシーンです。編集作業のときに映像を見て、これまでの伊織の積み上げてきた人生が伝わってきました。香帆も、伊織と一緒に居たいけど一緒に居れば傷つけてしまうという葛藤や、別れを告げる手紙に書いてあることと、本当の気持ちは違うという揺らぎを表情で表現されていて。
香帆の揺らぎの表現は、繊細さが求められる難しいお芝居ですが、久保田さんとはワンシーンごとに意見交換させていただきました。脚本以上に香帆の感情、秘めた想いを細やかに演じてくださって、心に響くシーンになりました。
佐藤 ある日の休憩中に、久保田さんとふと香帆と真也の10年について話をしたことがあるんです。なぜ香帆が元夫・真也(長谷川慎)を断ち切れないのか、そこはとても難しい表現が必要で。10年のあいだにあった出来事と、その時々の香帆の心根がどう動いていたのか…。僕の中での香帆の想いを共有できた気がして、久保田さんが見事に体現してくださいました。
―――では、佐藤さんの印象に残っているシーンは?
佐藤 第2話で撮影した夜の橋が、最終話では伊織と香帆が歩くシーンとして登場します。そのシーンでの伊織と香帆の会話は、お二人にアドリブをお願いしたのですが、伊織が「早く、香帆さんのご飯を食べたいです」って口にして。その時の佐野さんは1・2話で伊織が見せていた“子犬感”とはまた違っていて、お互いに積み重ねてきた時間が、まるで老犬のようににじみ出ていて…。二人の時間の変遷をドラマとして描けたこと、結末に向けてのフックになっていること、いろんな思いが僕の中で去来して。佐野さんが出してくれたアドリブはグッときました。
――時間の流れ、気持ちの揺らぎも丁寧に描かれた作品だと感じました。
佐藤 準備段階の頃から、セリフが詰め込まれた作品にはならないな、という共有認識がありました。
多賀 説明セリフやフラッシュバックはなるべく抑えて、登場人物の感情を丁寧にじっくりと見せたい、と。
川和田 ワンカットを丁寧に美しい画で紡いでいく。空間、空気感ごと撮影して、そこに感情を込めていこうと意識していました。
佐藤 その中でも、登場人物の目線は大切に撮っていきたいと考えていました。ドラマのセリフって、相手が何を言うか決まっていて、準備もできているのですが…相手の顔を見つめながら、セリフや仕草のちょっとしたニュアンスが想像していたものと違うと、新鮮さとともにキャラが引き出されると思うんです。映像はゆったりと流れているけど、観る側の想像力は前のめりに働いてくれるような、今、二人が目に見えていないはずの心の内側が映像で可視化された瞬間に感動するような、そんな作品にしたいなと思っていました。
――「分福」には是枝裕和監督も所属されています。内面活写をする上で影響が?
佐藤 僕が監督をした映画『泣く子はいねぇが』(2020年)の撮影現場に来てくださったときに、「現場では脚本に目を落とさずに、いかに脚本の外に目を向けられるか」というお話をしてくださり、いつもそれを意識しています。脚本だけに目を向けないで、その場で起きていることに目を向け、いかに耳を澄ませることができるか――。『離婚後夜』の現場でも、できる限り現場で起きていることを意識して撮影に臨むことができました。
――最後に、初の地上波連ドラ撮影を終えてみていかがでしたか?
多賀 これまでの作品では自分ひとりで決めてきたことを、今回は二人にどんどん聞いて混ぜて紡ぎあげていくチームワークが新鮮でしたし学びになりました。
川和田 二人の監督から発想と刺激をもらいながら監督できたことで、視点が広がったと感じています。全10話の流れや見せ方をすごく考えていらっしゃるチームで、いま改めて恵まれた現場だったなって感謝しています。
佐藤 3人で脚本づくりから参加できたこともいい経験になりました。撮影に入り俳優さんが演じた時に脚本では見えていなかった心情や想いに発見もあって。俳優さんとスタッフみんなでキャラを紡ぎあげていく複雑な作業ではありましたが、最後までやりたいことを全うできるチームワークだったなって実感しています。
【Aぇ! group佐野晶哉の第一印象は全くの別人だった!? 『離婚後夜』監督陣が語る、俳優・佐野晶哉の魅力】
ドラマ「離婚後夜」は、ABCテレビで毎週日曜深夜0時10分、テレビ朝日では毎週土曜深夜2時30分放送。放送終了後、TVerで見逃し配信。
Profile
是枝裕和、西川美和らが所属する「株式会社 分福」所属。
佐藤快磨●さとう・たくま 映画『ガンバレとかうるせぇ』がぴあフィルムフェスティバルPFFアワード2014で映画ファン賞と観客賞を受賞、第19回釜山国際映画祭のコンペティション部門ノミネート。『壊れ始めてる、ヘイヘイヘイ』、『歩けない僕らは』、『泣く子はいねぇが』など。
川和田恵真●かわわだ・えま 大学在学中に制作した映画『circle』が、東京学生映画祭で準グランプリを受賞。2022年、脚本・監督を担当した映画『マイスモールランド』では、ベルリン国際映画祭ジェネレーション部門招待、アムネスティ国際映画賞特別表彰など数々の映画賞を受賞。
多賀公英●たが・こうえい 2019年に脚本、監督、編集を担当したWeb Movie 『ティーンズ・エンパワメント・プロジェクト』がTCC新人賞を受賞。2021年には短編映画『ナムネス』がShort Shorts Film Festival & Asia 2021 『Cinematic Tokyo』プログラムノミネート。
(取材・文/ニノマエヒビキ)