「お客さんに同じ料理は出さないと決めている」「包丁とフライパンがあれば美味しいものはできる」 “博多の破天荒シェフ”山下泰史
「CHEF-1グランプリ2024」は現在エントリー受付中だが、前回大会の「CHEF-1グランプリ2023」で最も注目されていたといっても過言ではなかったのが、博多の破天荒シェフと呼ばれた、ジャンルレス部門山下泰史シェフだ。コックコートを着ないのがポリシー、ストリートファッショに身を包んだ姿を覚えている人は多いだろう。
審査員に絶賛されながらも2年連続準優勝。「今年は有無を言わせないものを出す」と宣言して臨んだが、決勝第二試合のラーメン対決で、フードクリエイターの丸山千里シェフに敗北。料理に対する向き合い方 料理で大切にしているもの 多くの人に知ってほしい夢など 山下シェフの本音に迫った。前後編のインタビュー後編。
料理では誰にも負けたくない
――ただ勝てばいいというわけではなく、ブレない山下さんのスタイル。自分の強みというのはどこにあると思いますか?
山下 料理には自信を持って出しているけど、一方で「大丈夫かな?」という視点は、常に同じくらい思っています。強みは何かという質問の答えになっているかどうか難しいですが、僕は思ったことは言うし、嘘も言わない。だから、料理にもそれはシンプルに出てるんじゃないかと思います。自分がやってきたことを信じているし、自分を応援してくれる人がいるからその気持ちにも応えたい。やっぱり何よりシンプルに料理が好きなので、料理では誰にも負けたくないなというのが一番です。あと僕はリュックサック一つで会場へ来ています。包丁とフライパンがあれば特殊な調理器具は使いません。基本的にそこにあるもので対応するのが料理人なんじゃないかと思っています。
――食材に対するスタンスというのもありますか?
山下 包丁とフライパンがあればいいというのは、余計なものを使って食材の味を殺したくないということもあります。ある程度の食材であれば美味しいものが作れるというのが本来の料理人じゃないかなと思っています。今、どこへ行っても、食材ありきみたいなところがありますが、この食材じゃないとできないというのはあまりかっこいいと思わないので。僕は自分のお店で1カ月前に来たお客さんにも同じ料理は出さないと決めているのですが、手持ちの食材はほぼ変わらないということがあります。そこで身近なもので、1カ月前に食べたものではなくお客さんを感動させられたら、その方がかっこいいじゃないですか。
料理を出すタイミング、温度を大事に
――山下さんのスタイルの中でほかにも大切にされていることはありますか?
山下 僕は料理を出すタイミング、温度を大事にしています。それは自分のお店のサービスでも同じで、最初にお客さんに説明するんですけど、料理の写真を撮るのはOKなんですが、メイン料理は撮らずにすぐ食べてくださいと伝えています。やはり一番美味しい状態で出しているので、お客さんにもその間に食べてほしい。別に強制ではないですけど、そういう提案ですね。ですから『CHEF-1グランプリ』でもそこはとても気を使いますし、自分の順番によってはその場で作るものを変えたりもします。
「正直負けたのは屈辱でしかありませんでした」(インタビュー前編はこちら)
――大会を通じてのテーマは「料理に革命を起こせ」ですが、山下さんの場合、テーマがあってもなくても、常に新しい、驚きのあるものを作ろうとしているということでしょうか?
山下 新しいものという感覚とは少し違いますが、どこでもは食べられないものを出そうと強く思っています。料理雑誌も見ますし、他のレストランにも食べに行きますけど、そこから何かを得ようというより、「僕だったらこうするかな」「僕だったらこの食材にはこういうアプローチをしないな」と考えます。自分では考えつかないような料理に出会ったときもそうですが、同じ食材で自分だったら何ができるのか考えるし、まったく違うものを作ってやろうと思っています。食材については、価格が高かろうが安かろうが、その要素が必要だったら僕は使うし、食材の優劣は僕の中にありません。他人と同じ食材を使っても、僕の感覚でしか作れないものを作っています。
多くの人に知ってほしい夢がある
――山下さんにとって『CHEF-1グランプリ』に出る意義は何ですか?
山下 今も変わらない最初からの出場理由は、障害を持っている子供たちと何かがしたい、具体的には「障害者の方たちと一緒に楽しく美味しい料理を作って、誰もが行ってみたいなと思えるようなレストランをつくる」ことです。僕が福岡でなくて東京でやっていればまた別だったかもしれませんが、それを大っぴらに伝える場所がほしかったということ。僕は料理しか知らないので、大会に出て、こういうことをしたいというのを少しでも多くの人に知ってもらえればと思います。1回目の大会で準優勝したとき、すごく多くの人に声をいただき、実感もしています。そのほかの理由としては、料理人としてテーマを与えられて考えるということが普段あまりないので、その点はけっこう楽しんでいます。
――大会で他の料理人との交流はありますか?
山下 僕は誰かと仲良くなるために大会へ出ていないというか、少なくとも遊びには行っていない。お店も閉めて従業員の子も休ませて行っているので、僕だけかもしれないですけど、大会にはギリギリの時間に行ってすぐ帰って、できるなら営業をしたいと思っている。だから負けちゃダメだし、お店も背負っている。一方で、同年代の料理人で『CHEF-1グランプリ』には出ていないけどすごい料理人も知っているし、僕より頑張っている人間もめちゃめちゃいると思っています。だから、ここが全てというか、ここで満足してるような感じとは少し馴染まないのかもしれませんね。
一番理解してくれる人が一番近くにいる
――変に周りに合わせるのでなく、自分のスタイルを貫く山下さんをかっこいいと思っている人がたくさんいると思います。一方で、それはなかなか大変なことだと思うのですが、なぜそれができるのですか?
山下 僕もお店を始めた最初のころは、料理人はこうじゃないといけない、レストランはこうじゃなきゃいけないというのがすごくあったんです。でも、お客さんに来ていただけるようになって、だんだん自分が過去にやってきたことではなくて、こういうものが作りたいんだよなというものが、自分の中から出せるようになった。その時に、あ、間違ってないなと思ったんです。いろいろ言われることもありますが、説明できるものしか作っていないですし、そこは自分を信じているというところが大きいですかね。
――料理人として、どうしたら自分を信じられるようになりますか?
山下 僕には嫁さんの存在が本当に大きいかもしれません。料理を始めたくらいのときから知っていて、ダメな時とかいい時とか全部知った上で、一番理解してくれる人が一番近くにいるから。この人を悲しませたくないと僕も思っているし、彼女も僕の料理を信じてくれている。だから人がどうこう言おうと関係ないし、何も怖くないというところがあります。やはり見守ってくれている人がいなかったらこんなに強くはいられないかな。
「CHEF-1グランプリ2024」は現在エントリー受付中!!
エントリー課題は「ハンバーガー・サンドイッチに革命を起こせ!」
40歳未満であれば日本全国どこからでも参戦可能!詳しくは公式ホームページまで!