“普通の生き方”に違和感を抱いたことのあるすべての人を、応援したい!!ドラマ「●●ちゃん」
ドラマ『●●ちゃん』は、アラサー女性の性の悩みと本音を赤裸々に描いた新感覚のドラマシリーズ。タイトルの『●●』に入るテーマのヒロイン別に、オムニバス形式で物語が構成される。第一章は増田有華が主人公を演じる“セックス”ちゃん、第二章は秋山ゆずきによる“高学歴”ちゃん、第三章は大久保桜子による“不倫”ちゃん。“ちゃん”とまろやかな響きになっているものの、第1話から強いメッセージ性がしっかり込められているドラマに仕上がっていた。
8月20日に放送された第1話では、セックスによって他者を理解しようとする史恵(増田)のフリーダムな性生活が主に描かれた。史恵は、年齢・職業・体型・性別関係なく、興味の惹かれた相手と楽しくセックスして、コミュニケーションを取ることを生きがいにしている。
まるで欲求不満のようにも受け取れる史恵だが、その胸中を覗けば、「誰でもいいわけではない。セックスをしないと相手がどんな人かわからないから、手段がセックスなだけで、ただ人とのコミュニケーションを楽しみたい」と、表面上ではなく相手の中身を知りたいという、純度の高い一面が見られた。周りが推し活やゲームに夢中になるのと同じように、自分は趣味がセックスなだけだと冷静に自己分析しているわけだ。
そんな史恵には、定期的に会うセフレが何人かいる。しかし、三十路を前に彼らは出世、結婚などライフステージが変わることを理由に、セフレライフを卒業していく。「誰ともセックスができなくなるかもしれない」と焦る史恵だったが、3年前からのセフレ・西村(木ノ本嶺浩)とは変わらず会えることがわかり、歓喜で小躍りする。
その夜、西村と情事に明け暮れる史恵だが、西村の様子がどこかおかしいことに気づく。聞くと、転勤が決まったためその日で関係を終わりにしたいと告げられる。思わず絶句してしまう史恵は、ショックのあまり恋人関係になりたいような言葉を投げかけ、西村もまた、まんざらではなく受け入れようとする。「普通に恋愛して結婚して暮らせたら…」と史恵は思うものの、その安定には飛び込まず、結局二度と会わないことを選択する。
「今までありがとう」、「こちらこそ、さようなら」と西村を見送る史恵。その目にはみるみる涙がたまり、部屋の扉が閉まった瞬間にあふれ出る。「普通」に憧れる気持ちはあるものの、どうしてもそれを選択することができない心情が、とめどなく流れる涙から伝わる。心の澱が涙となりとことん泣いてしまいたくなる気持ちは、年齢・性別に限らずわかりみの深いところだろう。
多様性が叫ばれ、「みんな違ってみんないい」理解が加速度的に進むように見える現代においても、普通という勢力はやはり強く、我々の心をがんじがらめにする。西村が閉めて出て行ったドアの向こう側、史恵のいる部屋のこちら側は、まるで「普通」と「普通じゃない」境界線の演出のようにも思えた。もう戻れない選択をしてしまった、普通の幸せからのはしごを自ら外した史恵の孤独と焦りがあいまった表情は、忘れがたい。
原作の五百田達成氏は、「“普通の生き方”に違和感を抱いたことのあるすべての人を、応援したい。ドラマを通じて、よりたくさんの人にエールが届きますように!!」とドラマ化にあたりコメントを発表した。その言葉通り、第1話からまさに「普通」を選択できない人たちにスポットを当て、「君だけではないよ。ではどうする?」と問題提議するようなストーリーとなっていた。性関係だけでなく、その奥に潜む「普通」へのプレッシャーをじんわりと訴えるこのドラマ、さらりと流し見するにはもったいない濃厚さだ。
ドラマ『●●ちゃん』は、ABCテレビで毎週日曜深夜0時55分~放送中。DMM TVにて同時独占配信。TVerにて見逃し配信あり。(文・赤山恭子)