「エバースは小手先の笑いじゃなくて本筋の笑い」 MC山里亮太と審査員ミルクボーイ・駒場孝に大会終了後インタビュー 「ABCお笑いグランプリ」

 

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第46回ABCお笑いグランプリ2025』決勝が6月29日に生放送された。生放送直後、司会を務めた南海キャンディーズ・山里亮太、そして今年初めて審査員を務められたマヂカルラブリー・野田クリスタル、ミルクボーイ・駒場孝、ハナコ・秋山寛貴にライターでラジオパーソナリティの鈴木淳史が話を聴いた。

前編では山里、駒場という大阪で若手時代を過ごしたふたりに、『ABCお笑い新人グランプリ』時代に出場していたこと、大阪若手芸人への想い、また今年優勝を果たしたエバースから感じることなどを話してもらった。

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―まずは終わったばかりですが、率直な感想からお願い致します。

山里『とんでもない大会になりましたね。お笑いの凄さを思い知らされたというか、ずっと「ABC(お笑いグランプリ)は異種格闘技戦」って言ってるんですけど、その真骨頂というか。審査員は大変だったと思うんですけど凄かったですね。本当にみんながそれぞれ自分のおもしろいと思っているもので相手を殴り合う感じなんで、観てて痺れました。自分の得意な武器が何かわかっていて、自分の好きな笑いが何かわかっている人間が「俺はこの笑いがこんだけ好きなんだ! 見てくれ!」っていうのをぶつけ合ってる姿って、めちゃくちゃかっこいいし、めちゃくちゃおもしろいんですよ』

―山里さんが決勝に出場されていた2004年と今の時代で変わった点や変わっていない点を教えてもらえますか。

山里『当時と変わってる部分はお笑いのパターンがめちゃくちゃ増えているということと、ネタの魅せ方やおもしろいという部分を表現するバリエーションが増えているということですかね。変わらないところは、ここが何か自分の大きなスタートラインになること、今日の戦いで明日から変われるというとこかなと。今、色んな戦いとか色んな発信方法がある中で、「ABCお笑いグランプリ」というのは、その最高峰なんだなと観ていて思いましたね』

―2004年当時との大きな違いでいうと、芸歴5年以内だったのが芸歴10年以内に変わったというところも大きいと思います。

山里『5年は5年の良さがあったんですけどね、粗削りなニュースターが生まれやすいという。でも、10年も良いと思います。ABC(お笑いグランプリ)の戦いというのは、お笑いを盛り上げるという意義が広がることなので、その幅が広がるというのは、お笑いの幅が広がることにつながりますから』

―大阪芸人だけの出場資格だったのが、東京芸人にも門戸が開かれたことも本当に大きかったと思います。

山里『大阪と東京のボーダーが無くなっている気がするんですけどね。とはいえ、ABCという冠がついた大会で、大阪で頑張ってますという若手が勝つ姿も観たいですよね。東京ってチャンスが大阪よりめちゃくちゃ多いんですよ、露出する機会とか。だから、やっぱり東京の若手の子って早くから番組を持ってたりすることも多いんです。それでいうと大阪の子ってそのチャンスが無いから、この「ABCお笑いグランプリ」で跳ねて、得るものが一気に変わるというのは、大阪の子の方がデカいんですよね。大阪の子が勝つ夢みたいなもののためにも大事かなと』

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―山里さんが他のインタビューで、お笑いをファニーとインタレスティングという言葉で話されているのが興味深かったのですが、改めて、そのあたりをお話しいただけますか。

山里『おもしろセンスで魅せるのがファニーで、これはある程度まではテクニックでいけるんです。そこから生まれる笑いは素晴らしいんですけど、それとは別に、人に何か伝えるってことで笑いをドンと生むのも同じくらいの価値があるんじゃないかなって思うんです。それをインタレスティングとしているのですが、その部分であれば、何とか努力して頑張っていくと、バケモノみたいなセンスを持ってる先輩たちや後輩たちと同じ世界で戦っていけるし、(インタレスティングは)お笑いとして(ファニーと)同じだけ凄いことなんだよと自分に言い聞かせています』

―今回の若手のファイナリストたちを観ていて、同じ芸人として、漫才師として、嫉妬を抱いたり、闘志が湧いたりということはあるでしょうか。

山里『嫉妬を抱いていい権利が無いくらいの舞台数なんで僕らは。シンプルに凄いなって思います。闘志? 自分が舞台とかをやっていなかったら直視できないというか、凄すぎて…。もはや若手のセンスあるおもしろいことをやる人たちには、嫉妬とか闘志より憧れがありますね。俺もあんな漫才できたらいいな、やってみたかったなみたいな、いいなというのはあります。嫉妬はできないです、流石に』

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―今回の優勝コンビであるエバースは、山里さんが大阪におられた頃の先輩である笑い飯さんや麒麟さんや千鳥さんたちを彷彿とさせるような2000年代初頭特有の男臭さというか武骨な無頼派という印象を受けたんですけど、いかがでしょうか。

山里『佐々木君のセンス、町田君の人から愛される感じも良いですし、確かに武骨な男臭い感じはありますね。ネタのチョイスとか、時代を反映したポップなワードみたいなのをあまり使わないじゃないですか。もちろん「マジ孫」とか凄いワードはありましたけど、小手先の笑いじゃなくて本筋の笑いというか、そこが武骨なとこなんですかね。一本筋の通った会話劇であれだけ出来るなんて、相当凄いですよね』

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 嫉妬や闘志では無くて憧れという言葉、そして本筋の笑いというエバースへの大絶賛と言うべき言葉。そのインタビューを踏まえて、ミルクボーイ・駒場の元へと向かった。

駒場『レベルは高いと思ってましたけど、本当に高かったです。自分らに置き換えて観てしまいますね。(自分はこれを)超えられるのかなって。賞レースってテレビで観ていてもおもしろいですけど、生で観るとよりおもしろいですね。芸歴って関係ないなと思いました。生のスタジオで観たら(ネタの仕組みが)わかるかもと思ったんですけど、結局わからないですね。こんな感じでウケるんやったら、ここをこうしたらウケるはずやん、とか考えるんですけど、やはり掴めないし、やはり違う。だから、お笑いはおもしろいなと』

―実は山里さんにも同じ芸人としてどう思われるかをお聴きしたら、『嫉妬や闘志では無くて、もはや憧れ』という言葉が返ってきたんです。

駒場『まだ僕は闘志です(笑)。』

―オープニングで生放送の前に漫才を4ステージ劇場でされてきたと聴いて、とても驚きました。

駒場『決勝メンバーが劇場で直前に調整して出てくるというのは聴いたことあるんですけど、審査員は無いですよね(笑)。最初やらせてもらうのを悩んだのは、同じ寄席(ステージ)に出てるメンバーも(ファイナリストに)いたということなんです。それも毎回その人たちに寄席で勝ってると感じているわけでも無いので。それなのに審査するのか?というのを悩みました。毎回寄席で勝っていたら審査してもいいですけど。去年も普通に配信ライブを200本くらい観ていて、若手に対して自分らと置き換えて観てしまいますね』

―ミルクボーイが決勝に出場されたのは2011年で、芸歴5年以内で大阪芸人しか出場できなかった時代ですよね。

駒場『まだ出場資格は芸歴が5年以内の時ですね。僕ら1回だけ出ていて、まぁ出て何も結果無かったですけど。その頃は、一個のキャラとかボケとかでボーンといけましたけど、芸歴が10年になると、それだけじゃ敵わないないというか。ひとつのアイデアだけじゃ無理なんやろうなと、今日も観ていて思いました。最近、大阪の芸人が東京に行く流れがあるじゃないですか。東京勢に大阪勢から刺激を与えて強くしてしまってると思うんです。大阪だけで戦い合っていたら、大阪勢が強いままなのに。別に大阪勢が弱くなってるとかではなくて、逆に東京勢を大阪勢が東京で鍛えてしまっているので、東京勢の層が厚くなっていくんかなと思いますね』

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―今回優勝されたエバースは、どのように観られていましたか。

駒場『エバースいいっすね。設定入らず、本当にしゃべりだけで、漫才の一番いい形ですから。そりゃ強いなって。しかも、去年の「M-1」とか、その前の「M-1」の敗者復活で、それぞれ(人柄)が浸透してきているので。それまでもネタおもしろかったんですけど、人は知られていくにつれておもしろくなっていきますよね。どんだけ町田君が吠えても、佐々木君に絶対言われるというのがわかっていると、やっぱおもしろいんですよ。元々ネタはおもしろいので、これから強くなっていく一方だと思いますね。こんだけ賞レース出ていて、まだ強いネタがあるというのが凄いですよ』

―もしもの想定の話ではありますが、来年も審査員の依頼があったら、どうされますか。

駒場『今年みたいにテンパらない様に、来年は5ステ入れてもらってから審査員します! もうちょっと仕上げてから(笑)。それくらいに、もっと漫才に寄り添ってから審査員をしないといけないと想いました』

 おふたりから想像以上に熱い想いを聴けたが、次回は、ずっと東京で活動されてきたマジカルラヴリー・野田さんとハナコ・秋山さんにお話を聴いていく。

第46回ABCお笑いグランプリ2025』 決勝戦はABCテレビで生放送された。ABEMAでは8/31(日)まで配信中。

(取材・文/鈴木淳史)

鈴木淳史(すずき・あつし)

1978年生まれ。雑誌ライター・インタビュアー。ABCラジオ『真夜中のカルチャーBOY』(毎週土曜深夜2時~3時)ラジオパーソナリティ担当。雑誌『Quick Japan』『Meets』など執筆担当。

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