板谷由夏が「食らいついていかないと」と感じた桐谷健太の佇まいとは・・・
桐谷健太主演の連続ドラマ『いつか、ヒーロー』(ABCテレビ・テレビ朝日系列 毎週日曜夜10時15分)で、テレビ局政治部の記者・西郡十和子を演じるのは、昨年の『東京タワー』(テレビ朝日系)で数々の助演女優賞に輝いた板谷由夏。過去に因縁のある元児童養護施設職員・赤山誠司(桐谷)や大企業の会長・若王子公威(北村有起哉)にエース記者として斬り込んでいきます。今回のインタビュー前編では、本作への向き合い方や自身が憧れたヒーローについて、また「駆け抜けた」というこれまでの歩みについて聞きました。

——『いつか、ヒーロー』のオファーを受けたときは、どのように思われましたか。
お仕事のお話を頂くときは、オファーの段階で脚本をいただいたり、監督のお名前を伺ったりして検討するのが通例なのですが、今回お話を聞いた瞬間に、フワッと香ってきたと言いますか。林宏司さん(『コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-』)の脚本で、アベラさんが監督なら、やってみたいなと即座に思いました。
——アベラヒデノブ監督は、『新聞記者』『正体』などの映画で知られる藤井道人監督率いる「BABEL LABEL」に所属する注目監督です。
私たち俳優は、登場人物の心情は想像できるんですが、画はなかなか浮かばない。でも、私が知るアベラさんのセンスで撮られると、街の風景や水槽などが、見たことのない映像になるのではないかと思ったんです。
——演じる西郡十和子については、どのように感じましたか。
正義感があって、記者らしい記者だと思うんです。心のひだに幾重にもグラデーションがあるというか、報道記者としてだけではない斬り込み方をしていくので、先の脚本を読むのが楽しみです。きっと、すごく人間臭い人物として描かれていくんじゃないかな。

——現場はいかがですか?
アベラ監督はこだわりの強い方なので、画作りもお芝居も諦めず、果敢に時間を割いてカットを重ねていくんです。ただ、粘る時間がない日もあるんですよ。そういう日も、決してネガティブにならず、「良い作品を作ろう」っていうポジティブな雰囲気がみんなに漂ってます。
——雰囲気が良いのは、座長の力も大きそうですね。
それもあると思います。桐谷さんは「自分のターニングポイントになる」と記者会見でおっしゃってましたけど、座長にそこまで気合いが入ってると、私たちもついていかなきゃと奮い立たされて。例えば、最初に撮った、十和子の視線の先に赤山が立っているというシーン。もう、その佇まいからして全身全霊で赤山だったので、「食いついていかないといけない。私も頑張るぞ!」と思わされました。
——序盤は、若王子公威役の北村有起哉さんや、小松崎実役の小関裕太さんとの絡みが多いです。お2人との共演の感想は?
北村さんとは前に舞台でご一緒して、今回が2度目になります。ほかのみなさんもそうですけど、本当に足元がガッチリされていて、どんな球を投げても受けてくれるし、どんな球でも投げてくる。お芝居をするのが楽しいです。小関君とは、私がドカドカズカズカな上司で、彼がひゅひゅとついてくる部下という関係(笑)。「板谷さん、板谷さん!」と慕ってきてくれるので弟分みたいで可愛いんですけど、これからいろんな展開がありそうなので、板谷的にはちょっと複雑な気持ちで見てます(笑)。

——『いつか、ヒーロー』というタイトルにかけて質問です。「いつかなりたい」と思っていた、子どもの頃に憧れた職業は?
私、動物のお医者さんになりたかったんです。小さい頃、ムツゴロウさんに憧れて、北海道の動物王国で働きたいと思っていたくらいなんですよ。でも、それから背が伸びに伸びたので、モデルになって、こっちの世界に入ってという感じです。
——板谷さんが憧れたヒーローやヒロインというと?
20代の頃に同じ業界で仕事をしていた女性の先輩たちです。モデルや女優、そしてバリバリ働く事務所の社長さんなど、私の周りにはかっこいい女性たちがいたので(笑)。20代のときは色々とても不安なことが多く、よく頼ってました。そして30代、40代と一気に駆け抜けたときに、「あの人たちに、もう1回会いたいな」と思うようになって。最近、本当に会いに行ってるんですよ。彼女たちは今、60代や70代。だけど会うとあの頃の感覚に戻って、20代のときのように、また励まされたりしています。
——30代、40代は一気に過ぎた感じですか。
子育てもあって忙しかったし、必死に生きていました(笑)。

——モデル、女優に加え、キャスターとして登場されたときは驚きました。
そうですよね、私もびっくりしました(笑)。ちょうど結婚したての頃にお話をいただいたので、「……私ですか?」みたいな。
——現場にもよく行かれてましたよね?
はい。必ず現場に行くようにしていて。オファーをいただいたときに、「板谷さんの周り半径数メートルの、身近なクエスチョンを追求してほしい」と言われたんです。だったら、自分で取材に行かないと、と思って。生放送の席でお話しするだけだと嘘臭くなるから、取材に行かせてほしいとお願いしたんです。一般の方にもたくさんお会いできましたし、自分だけじゃ知れないこともたくさん知ることができました。あの11年間は、私の30〜40代を形成する土台になったと思います。
——女優業に役立つところもありますか。
「役立つ」と言ってしまうと、自分のためだけにやったことみたいなので、そういうことではないなと感覚的に思っていますが、役者の仕事に対して役に立つというよりも、私自身を形成するために、とてもためになった人生経験でした。

(後篇に続く)
ドラマ『いつか、ヒーロー』は、ABC・テレビ朝日系列で毎週日曜よる10時15分放送。放送終了後、TVer、ABEMAで見逃し配信。
ヘアメイク DILIGENT 結城春香
衣装 AYISI
取材・文/泊 貴洋
