北村有起哉 アキレス腱を切って仕事がキャンセル 何も出来ない期間に気付いたこと
桐谷健太主演の『いつか、ヒーロー』(ABCテレビ・テレビ朝日系列 毎週日曜夜10時15分)で、巨大企業グループの会長・若王子公威を演じる北村有起哉さんへのインタビュー後編です。赤山誠司(桐谷)と、生きづらい世の中に諦めを感じている5人のアラサー男女が手を組み、腐った巨大権力に立ち向かう本作。北村さんはどんな20代、30代だったのか? 今、若い世代に届けたい思いなどを聞きました。

――制作発表会見で、林宏司さんの脚本への思いを語ってらっしゃいました。
あれだけのヒットメーカーが5年も置いていた筆を取るというのは、よほどの覚悟があったのではないかなと、台本を読んで勝手に感じました。今のこの社会、みんなわりとビクビクしているけれど、「いいんだよ! 俺は言っちゃうから!」という熱量、力強さ、清々しさがあって。5年の充電期間に「いろいろあったんだろうなあ」と想像を掻き立てられました。それが台本の魅力に繋がっていると思います。
――メインで演出を務めるアベラヒデノブさんとは、2本の主演ドラマ(「ムショぼけ」と「たそがれ優作」)で北村さんと一緒にお仕事されています。
なかなか大変でしたけど、やった甲斐がありました。アベラさんはまだ若いんですけどね、監督としてのイメージやビジョン、演出のアイデアをしっかりと持っている方で。遠慮しないというか、諦めないというか、しつこいというか(笑)。僕は好きです。骨のある人なんでね、僕が引き出しを全部開けきっているのに、「いや、ほら、まだここにありますよ引き出し!」と粘ってくる。そういう掛け合いを続けて信頼関係が着々と生まれていったところで、この作品でまた一緒にやれることが本当に楽しみです。
――主演の桐谷健太さんとは2023年のドラマ「ケイジとケンジ、時々ハンジ。」(テレビ朝日)から2年ぶりの共演となります。
今回の赤山役は、桐谷君に本当にピッタリです。彼は真っ直ぐで熱量があり、当たり前かもしれませんが礼節もちゃんとある。人として非の打ち所がないんです。ユーモアのセンスもありますし、ちょっと脇が甘いというか愛嬌があるから周りが突っ込める。こういう人が芸能界に残っていくんだな、売れていくんだなと思います。「ここ、こうしたいんだけど、こうやってみない?」「 健太、もしかしたらその芝居はちょっとあれだと思うよ」という提案や意見を言いやすい人です。そういう人はずっと伸びしろがあるので、(成長が)止まらない。それも彼の才能ですよね。

――本作では桐谷さんが演じる赤山誠司が、20年ぶりに5人の教え子たちと再会します。北村さんの30歳前後の頃は、どんな日々でしたか?
20代、30代はとにかく突っ走っていて、わりとイライラしていました。僕はわかりやすいぐらい上昇志向があったので、やればやるほど欲が出て、ハードルが高くなっていき、自分を追い込まなければ駄目なんだと思っていたんです。そんな風に突っ走っていたら、30歳になる前に、アキレス腱を切ったんです。多分過労で。 ちょっとオカルト的な話になりますが(笑)、親戚の霊感が強いといわれるおじさんから、久しぶりに電話がかかってきて、「邪悪な手みたいなものに有起哉が後ろから押されて、バーンと倒れた夢を見た」と言うんです。「アキレス腱を切って今入院してます」と言ったら「やっぱり」と言って、見舞いに来てくれて。「有起哉は前に進む勢いはあるけれど、後ろからポンと押されると前に倒れてしまう」と言われました。たしかに脇目も振らずがむしゃらにやっていた時期でした。出演するはずだった舞台・映画・ドラマが、アキレス腱を切ったせいで全部なくなってしまったので、次の日には松葉杖をついて、3箇所に「すいませんでした」と行脚しました。でももう僕の代役の子が衣装合わせをしていて、「別に自分じゃなくてもいいのか」という現実も身に染みて。あの何もできない期間というのが、すごく大事だったと思います。
――制作発表会見で、20代の宮世琉弥さんと長濱ねるさんが作品のメッセージ性について語った場面で、北村さんが感心した様子で親指をグッと立てていたように見えました。北村さんが今の20代、30代に伝えたいことがあったらぜひお願いします。
勝手に同情されるのも迷惑かもしれないですが。僕が思うのは、もうちょっと立ち止まってほしいな、何もしない無の時間を作ってみてもいいんじゃないかなということでしょうか。若い人たちは常に何かをやりながら生きてるように見えますよね。電車の中でもずっと携帯(端末)を見ていて。一度「なんであんなに携帯をずっと見ているんだろうね」という話題になったとき、ある人が「自分の現実を考えるのが怖いから」と言って、なるほど…! と思いました。

――携帯でSNSを追っていると、いつの間にか時間が過ぎていてびっくりします…。
寺山修司さんが「書を捨てよ、町へ出よう」と言いましたが、「携帯を家に置いて、街へ出てみたら?」と思います。もちろん僕も携帯で電車の乗り換えを調べたり、ニュースを見たりしてますけども、まず手ぶらになってみたらどうかなというのはありますね。すごく不安になると思います。その不安の先に、大した変化はないのかもしれませんが、何かがあるかもしれない。僕も何か特別なことをしているなんてことはなく、ボーッとしているだけなんですけどね(笑)。あと、本当にわかりやすい上からのメッセージになりますが、「選挙に行こう」ですよね。
――お子さんを投票所に連れていった日のことをInstagramに投稿されていましたね。
子どもに投票用紙を投票箱に入れさせようとしたら、立会人の方にものすごい勢いで怒られました(笑)。僕の職業は広く浅くでもいいのでいろいろと知っておいたほうがいいと思い、最低限の興味やアンテナを持つようにしてきましたが、この年になるとさすがに「やっぱりこうですよね」という自分が大切にするものが見えてくる。それは子供に伝えていきたいですよね。
――脚本の林宏司さんの思いが込められたこのドラマも届くといいですね。
本当にそう思います。「うわ!」と何かを感じてもらえるものを絶対に届けられると思うので、ぜひ見てほしいですし、僕自身も楽しみにしています。

ドラマ『いつか、ヒーロー』は、ABC・テレビ朝日系列で毎週日曜よる10時15分放送。放送終了後、TVer、ABEMAで見逃し配信。
取材・文/須永貴子
ヘアメイク 上地可紗
