「息子は殺された」交通事故で1歳長男を奪われた両親の慟哭 ドライブレコーダーが記録していた加害者の“不可解な運転”

去年、1歳の男の子が交通事故で亡くなりました。その後、疑惑として浮かび上がったのが事故相手の不可解な運転操作。「息子は殺された」と話す両親の思いと事故の真相に独自取材で迫ります。


大阪市に住む神農諭哉(かみの・ゆうさい)さん(33)と妻の彩乃さん(38)は昨年9月、車同士の衝突事故で、長男で1歳の神農煌瑛(かみの・こうえい)ちゃんを亡くしました。事故が起きたのは家族4人で出かけた高知県香南市。片側1車線の自動車専用道路で、60歳の男が運転する車が対向車線から突然飛び出し、一家の乗る車に衝突したのです。

運転していた諭哉さんと助手席の彩乃さんは重傷。6歳の長女にはケガはありませんでしたが、後部座席のチャイルドシートに座っていた煌瑛ちゃんは事故の衝撃による外傷性ショックで命を落としました。

事故の瞬間を諭哉さんの車のドライブレコーダーが記録していました。数台の車とすれ違った後、センターラインを越えて対向車線にはみ出してきた1台の車。それから諭哉さんの車に衝突するまで、わずか0.8秒後。まさに一瞬の出来事です。
【動画】ケガを負いながらも、必死に煌瑛ちゃんのもとに駆け寄ったという諭哉さん。意識が混濁するほどの重傷だった彩乃さんは、翌日、息子の死を知りました。

現場の見通しのいい緩やかなカーブ。なのにどうして事故は起きたのか?ドライブレコーダーの映像から事故原因を解明する手がかりを探るべく、取材班は交通事故鑑定人の中島博史さんに検証を依頼。中島さんが「普通の運転ではなかった」と判定する“不可解な点”が明らかになりました。

対向車線から急にはみ出してきた男の車。その進入角度から推定すると、「ハンドルを90度くらい切っているはず」と中島さん。このような操作は一般的な運転では起こりようがありません。

さらに映像をくわしく調べてみると、衝突する寸前にはフロントガラスに見える男の顔らしきものが、その少し前までは一部しか見えていません。通常だと見えているはずの運転手の顔がなぜ消えているのか?中島さんは「(男が)何らかの状態で腕を上げていたか、着替えをしていた」と推察。つまり、「前が見えていない」状態で運転していた可能性があるのです。

これを裏付ける情報が関係者への取材で出てきました。事故後に現行犯逮捕された男が、その後の捜査で「日常的に自動運転モードにして着替えをしていた」という趣旨の供述をしていたのです。

国交省によると、「自動運転」は大きく分けて5段階。前に障害物があると自動的に止まるブレーキなどを備えた運転支援の「レベル1」から、すべての運転操作を制御システムで行う完全自動運転の「レベル5」までありますが、日本で実用化されているのは、車線を維持しながら前方の車に追従して走る「レベル2」まで。
(※ホンダの1車種を除く)
この「レベル2」まではドライバーが常に走行を監視しなければならず、事故があった場合の責任はドライバーが負わなければなりません。

中島さんは、運転手の男が通常の監視をしていれば、自動運転モードでも現場の道路は問題なく通過できていたはずだと指摘。ほか、事故後に捜査機関が男の車をくわしく調べたところ、シートベルトをしていなかった疑いも浮上しました。

一体、男はどんな運転をしていたのでしょう?取材班は男を直撃。撮影をしないという条件で取材に応じた男はこう話しました。「事故を起こしたことは申し訳ない」と思っているが、事故の瞬間を含む前後のことは一切「記憶にありません」と…。


徐々に明らかになってきた事故の状況。最愛の息子を奪われた父・諭哉さんは「こんなふざけた事故を許してはならない」と憤りを露わに。事故から半年、リハビリ治療に励む母・彩乃さんは、真相に近づくために加害者の男と「運転席がほぼ同じ」車に買い換えました。

自動運転の機能を実際に使ってみて「車のせいではなく、本人がただ悪かったとわかった」と彩乃さん。どんどん高機能になる車。しかし「乗り方を間違ったら凶器になる」。ドライバーはその凶器を人に向けない重い責任を負っているのです。

1歳の命を奪った交通事故の真相に迫る独自取材は、4月1日(火)放送の『newsおかえり』(ABCテレビ 毎週月曜〜金曜午後3:40〜)で紹介しました。
