『2児の母も夜な夜な訪れる”味園ビル” 中にあるバーは「大人の託児所」「自分が自分になれる場所」』
1955年に誕生し、バブル時代を彩った大阪・ミナミのランドマーク「味園ビル」。その2階テナントフロアが、2024年末でついに営業終了となる。閉店まで残り約1ヶ月に迫った今、2階にあるバー「マンティコア」のマスターや常連客たちは、何を思うのか? カメラが追うと、知られざる人間ドラマが明らかになった。
【動画】2024年末に閉店した後、バー「マンティコア」の50歳男性マスターはどんな人生を歩むのか?
50歳の男性マスターが約17年も営むマンティコアには、さまざまな思いを抱えた常連客が夜な夜な集う。「喋ったからといって解決するわけではないけれども、誰にも言えないんだったら、誰かにちょっとは言える方が楽になるみたいなことは、おそらく世の中たくさんある」というのが、マスターの考えだ。「マイノリティに優しくはあると思う。このビルは」と語る、彼の表情も優しい。
常連客の中には、十三(じゅうそう)の老舗キャバレーで「黒服(ホールスタッフ)」として働く女性がいる。若くして結婚・出産した彼女は、14歳と10歳の子どもを育てるママでもある。かつては家族のために、介護やスーパーの仕事をしたが、「かっこいい」とあこがれていた黒服の夢を1年前に叶えたそうだ。彼女にとってマンティコアで過ごす時間は、「自分が自分になれる」大事なひと時。「母親でもない、誰かの嫁でもない、誰かの従業員でもないっていう時間は、ここでしか得られないもの」と、女性は明かした。
14年ほどマンティコアに客として通い続けるスナック勤務の女性には、「好きな人がいっぱいいすぎて、ちゃんと人と付き合えない」という悩みがある。あまりにも人数が多くて、「1人に決められへん」そうだが、子どもは欲しいため、「パートナー選びに困っている」そうだ。どんな話でも、聞き上手なマスターは受け止めてくれるため、女性にとってマンティコアは、「大人の託児所」だという。
そんな常連客たちは、マンティコアの閉店をもちろん寂しがっている。しかし、1つの節目として閉店するマスターの決心は揺るがない。それは彼が、「お店がなくなっても、縁がある人とは多分会う」「多分僕がいなかったら、また新たな宿り木みたいなところをほとんどの人は見つける」「それくらいの関係性でいい」と思っているから。店を訪れる人達に対して、「ここがないと生きていけないみたいなことまでは思ってほしくない」「何かこの先の、それぞれの人生のちょっとした糧になっていればベスト」と、マスターは語った。
マンティコアで約17年過ごした日々は、「幸せだった」というマスター。残りの1ヶ月の営業も特別なことはせず、「今まで通りやるつもり」だそうだ。彼は最後の日まで変わらず店に立ち、常連客たちも変わらず店を訪れるのだろう。なお、人々の心の拠り所になっているマンティコアは、11月29日深夜に放送されたバラエティ番組「ちょいバラトーナメント」『灯る時間』(ABCテレビ)で紹介された。