“『まかない』を即興で作れないのが今どきの子” “ゴルフに例えるとトーナメントプロのような対応力が必要” 「CHEF-1グランプリ2024」2回戦・大阪会場 審査員インタビュー

©ABCテレビ

激戦が続いている料理人No.1決定戦「ザ・プレミアム・モルツpresents CHEF-1グランプリ2024」。2回戦が開催された札幌、東京、大阪、広島、福岡の全国5会場のうち4会場目となった大阪の舞台は、大阪調理製菓専門学校 ecole UMEDA。書類審査の1回戦を勝ち抜いた103名のシェフの中から大阪会場には22名のシェフが参加した。

「ハンバーガー・サンドイッチに革命を起こせ」という課題に対してシェフたちはどのような答えを出したのか? 大阪会場審査員の、大阪調理製菓専門学校 ecole UMEDAの古谷泰雄先生、京都で最も予約が取りにくいレストランと言われるイタリアン「イル ギオットーネ」のオーナーシェフ笹島保弘さん、そして、「Meets Regional」ほか、数多くのグルメ雑誌に寄稿するフードライター、佐藤良子さんに話を聞いた。

©ABCテレビ

Q1.審査を終えての感想は?

笹島:「CHEF-1グランプリ」を審査するのは2回目だが、年々レベルが上がっている。他の大会の審査も務めるが、大会によってはときどき「的外れ」な料理も出る。今日の料理は綺麗に料理として着地していた。僕らの時と違い最近の子たちは情報を取るのがすごく上手。他のジャンルのテクニックをうまく取り入れている。僕らのころは極端な話、食べ歩きして自分で食べないと分からなかった。食べたとしても何が使われているかは分からなかったりする。今は世界中の情報が簡単に手に入る。それが如実に出ていると感じた。僕は料理をいわゆる「職人」的な仕事だと思っている。昔気質も大事だが、(インターネットなどで)情報が取れる状況なのだから、ノンジャンルに情報を取り入れていくのは今後の日本の料理業界においても大事なこと。日本人は手先が器用で真似をしたときに、まとまった形で綺麗に着地させるのが上手だと思う。真似してもちゃんと着地できなければ真似する意味はない。どんどんやってほしい。日本の料理界の未来は明るくなると思う。

古谷:斬新というか、組み合わせが素晴らしい。今まで使われていない素材を活かしたり、西洋料理ジャンルで出ている人が他ジャンルのテクニックを使ったりするなど、色々チャレンジして工夫していた。

今回のテーマはハンバーガーなので、当然、中国料理の人も西洋料理のテクニックが必要になる。見た目がバーガーなので味についてもアメリカンな出来上がりを想像するが、食べてみると中国料理的だったり、日本料理的だったりしてとても興味深かった。

©ABCテレビ

佐藤:私も審査員をするのは去年に続いて2回目。すごくレベルが高かった。ハンバーガーというテーマだったので、もうちょっとテーマから外れて「驚き先行」とか「見た目先行」な料理があるのかと思っていたが、実際は「見た目もかわいらしく」「味も調和している」料理が多く、高いレベルで拮抗していた。食べさせ方にも工夫が見られ「味変」するのが普通になってきている。私は雑誌記者なので、覚えておいて改めて取材したい料理もいくつかあった。
 
 

Q2.決勝へ進むために必要なことは何だと思う?

古谷:プレゼン力。審査員が食べる前に、前もって料理の説明をもっとしても良いと思う。後から説明されるより前もって説明される方がお客さんは食べるときに「これがそれか」と思いながら味わうことができる。緑色のソースが出た時に、キャベツのソースなのか、アボカドのソースなのか迷ってしまう。前もっての説明がある方が想像できて組み合わせが良かったかどうかを判断できる。

©ABCテレビ

笹島:僕は料理のコンクールなので「美味しくないとアカン」と思う。美味しいには色々あるが、ばっちり味が決まっていることが大事。塩味なら塩味。酸味なら酸味などのメリハリがいる。印象に残っているのは美味しい料理。パッと残るのは味。この先誰が審査しようが美味しくないものに加点はしない。多少形が崩れようが何しようが美味しいものを目指すのが良い。他の人がやらないことも大事だが、美味しくないとダメ。緊張もするだろうが百点に近い状態を本番でも出せるようにしてほしい。

佐藤:テーマに沿うこと。味とかパーツパーツが美味しくて、バランスもいいけど、「サンドイッチ&ハンバーガーに革命を起こせ」というテーマで驚かせようとし過ぎて本筋から逸れてしまっており、もったいないなという人が何人かいた。プレゼンの時にハッキリしゃべるのも大事だと思う。

笹島:世界中から手に入らないものはないので、今の子の料理は構成要素が多すぎる。私はあまりたくさんのものを盛ろうとしないタイプだが、最近の子の料理は「内容がめちゃくちゃ多いやん」と感じる。今の子の特徴かもしれない。言わば、色々(服を)着せていく料理。だんだん年をとると着ているものを脱いでいくようになる。若いうちに色々着せることをするのは、悪いことではない。若いうちにたくさん着ておかないと年をとってから脱いだ時に「すっぽんぽん」になってしまう。最終的には3つ4つの構成だけなど要素が絞られていく感じ。
 
 

Q3.「CHEF-1グランプリ」や大会のテーマなどについてどう思う?

古谷:参加した人は「革命」に関する情報が周りに無かったと思うので、自分のアイデア、才能を発揮するいいチャンスだったのではないか。それを起点に工夫してアイデアを出していた。

笹島:「革命」テーマは良いと思う。個人的には、今後のステージでは同じ条件・食材で何を作ってもいいよ、という戦いがあっても面白いと思う。この戦い方だとすごく個性が出る。それこそ材料を選ぶところから個性が出る。ゴルフにたとえた人がいて「前もって準備して料理するのはレッスンプロ。レッスンプロはコースに出た時に強いとは限らない。トーナメントプロは雨風など条件が色々変わる中で勝負する。大会である程度の結果を残せるのはトーナメントプロ。瞬発力や、その時の状況で底力が出る。お題を言わずに30分で調理してもらうなどは面白いのではないか。自分の不得意なものが来たらどうしよう、という緊迫感がある。前もってお題が決まっていて、何日間か練習する時間があって、というのはプロの料理人ならそこそこ上手にできるもの。ふたを開けてヨーイドンが本当の勝負。

©ABCテレビ

佐藤:「革命を起こせ」は独創性を重視するのが伝わってきてよい。ハンバーガーというテーマは審査員だったので20食以上食べるのかとプレッシャーもあったが、親しみのある料理なので出場シェフそれぞれの実力が見えたかなと思った。もう少しぶっ飛んでいてテーマから逸れる料理も多いのかと思ったがテーマの範囲内で工夫していた。

笹島:けっこう上手に無難にやってくるのは今の時代だと感じた。今の子に「お店のまかない料理を作りなさい」といったら献立を考えて発注表をつくってきて「この食材をお願いします」と言われる。僕らのころは急に言われてその場で適当にあるもので作った。まかないのために仕入するなんて想像できない。味噌汁にしめじを入れたら「もったいない」と怒られた時代。牛丼食べたいといわれたら冷凍のスジ肉の中から何とか切り出して作ったりした。今の子たちに悪気はなく、そういう世代の子たちなので経験したことのないことへ挑戦する即興性はキーワードになるかもしれない。プロでも即興だと慌てるもの。そのさまはリアルな戦いのイメージと本気さがある。プロに本気を出させることが必要。いじわるかもしれないが見ている人も本気度に引き込まれるのではないか。

佐藤:「CHEF-1グランプリ」は回を追うごとに面白くなっているイメージがある。取材先でも2代目チャンピオンの大原シェフが「CHEF-1グランプリ」で優勝したと紹介されていた。世の中にもっともっと「CHEF-1グランプリ」が浸透して、これからももっと面白い戦いが繰り広げられて欲しい。
 
 

Q4.印象深かった料理は?

古谷:ジャンルレスの女性シェフの料理は、見た目も綺麗で香り、食感もいい。味のバランスもとれていた。繊細さが伺えた。

©ABCテレビ

笹島:同じくジャンルレスの男性シェフの料理もすごく美味しかった。美味しくて食べやすくて、綺麗にまとまっているなと思った。みんなこんな感じで出てくるのか?と一番最初のブロックの審査だったので驚いた。古谷先生が言う女性シェフもおいしかった。

佐藤:私もジャンルレスの男性。今アマゾンカカオがレストラン業界では、ちょっと前から注目されているが、そういうトレンドも入れつつ、イワシとカカオの組み合わせの面白さもありつつ、パンのクオリティなど一つずつのレベルが高かった。女性シェフも米粒の固めのつぶつぶが良かった。

©ABCテレビ

古谷:中国料理では、エビサンドの四川麻辣炒めが印象的。この手の料理は普通脂っこさを感じるがそれも感じず、香りも良かった。こういうテクニックは他の料理ではやるが中国料理では珍しいと思う。唐辛子も香りが良く見た目よりは辛さ控えめで食べやすかった。

©ABCテレビ

笹島:僕もエビサンド。ふたを開けたら中華の香りがした。また、日本料理のシェフはストレートに美味しく、日本料理をちゃんと食べていると感じた。「日本料理をやっていますよ」というのが綺麗に出ており全ての仕事がきっちりしていた。日本料理でありながら、春キャベツのソースを作っていて、フレンチや洋食のテクニックを普通に取り入れている。最近のシェフは「これはフレンチでは?」「これはイタリアンでは?」など考えないのだと思う。それでも食べたらちゃんと正統派の日本料理になっている。もう一人の日本料理シェフも完成度がすごく高かった。ビジュアルもそうだが、和食といえば出汁が大事。料理における出汁はスパイスみたいに国の色が香りなどで出てくるもの。日本人だったら分かる感覚ともいえる。海藻にも火が絶妙に入っていた。普段からやっているというか、奇抜ではないが美味しい料理だった。

©ABCテレビ

佐藤:私もエビサンドは印象的。ちゃんとサンドイッチだけど、ホットサンドを超えた熱々感が新しくて面白かった。フタを開けたら熱々のサンドイッチだった。余韻もスパイシーで四川のしびれ感のある味が良かった。日本料理のシェフも動物性の食材を使わない、ということで現代的なテーマに目を向けていたのが良かった。

笹島:最初はいわゆるサンドイッチがずらりと並ぶのかと思っていたが、ふたを開けてみたら普通のサンドイッチは少なかった。そういうところもやっぱりみんなコンテスト慣れしている。悪い意味ではなく評価される料理のポイントなどを知っている。一昔前の料理コンクールとは違って、今は戦略を立てないと勝てなくなっているのではないか。美味しいだけでもダメ、あまり奇抜でもダメ。普通でもダメ。バランスが大事になってくる。今出ている人はそれをわかってやっている。その意味でもレベルが高かった。

佐藤:バターと小倉で名古屋の食文化を感じさせるシェフもいた。

笹島:それで言うと餅を使う人がいなかったのではないか。バンズの代わりにお餅を使う料理が出るかと思ったが餅離れが進んでいるなと感じた。僕らの世代はこの「お題」なら何人かは餅を使ったはず。お米を中に入れる人はいたが、お米で挟む人はいなかった。米とか餅とかに行きつかない世代になっているのかもしれない。お味噌の味も一人か二人であまりいない。日本の食文化が少しずつ変化しているのかもしれない。

古谷:中国料理でもう一人印象に残ったのが、デザートというかお茶に合うような飲茶の感じの料理。料理の一番上に載せているのもテクニックが入っていて上手に仕上がっていた。高級食材のフカヒレが少しあるのも良い。

©ABCテレビ

笹島:確かにあの料理を30分で作ったのはすごい。他にもバンズを焼いている子もいたし、何回も練習しているかシミュレーションしてないとできない。昔は「(大会でも時間内に)できませんでした」という子も結構いた。今の子はそれがほぼ無い。完璧に考えてやってくる。「今の日本人はアカン」と言われるが、料理をしている子に関して言えば未来は明るいと思う。京都にいると特に感じるが、漫画、アニメだけでなく低迷している日本を助けられるのが料理だと思う。国家レベルで何か料理学校に力を入れるなどしてほしい。このままではアスリートのようにみんな海外へ行ってしまう。既にオーストラリアに行ってしまうなど流出は進んでいる。それぐらい若い料理人のレベルは高いと思う

佐藤:雑誌メディアの特性上、トレンドに飛びつきやすいのだが、今「南米」がキーワード。サボテンとかナマズとか面白い食材を使っている料理を考えたシェフのお店にはいつか行ってみたいなと思った。

「CHEF-1グランプリ2024」は絶賛開催中 詳しくはHPまで!

関連記事

おすすめ記事 おすすめ記事