タイトル回収のラストに涙… ハッピーエンドの先に描かれた“希望” 堀田真由×萩原利久 この秋一番のピュアラブストーリー「たとえあなたを忘れても」最終話
ドラマ『たとえあなたを忘れても』は、夢を失った女性と記憶を失った男性が気持ちを通じ合わせる、切なくも美しいヒューマンラブストーリー。『神様、もう少しだけ』、『ラスト・フレンズ』などで知られる浅野妙子が執筆する、オリジナル作品となっている。
主人公は、音大を中退しピアニストになる夢を叶えられなかった河野美璃(堀田真由)。美璃はキッチンカーの店主・青木空(萩原利久)への揺るがぬ愛を確信し「結婚しよっか」とプロポーズする。これまで、空の記憶障害で二人の間には何度も壁が立ちはだかったが、空自身も自分に生きている実感を与えてくれる美璃の存在の大きさを痛感していた。美璃の申し出に笑顔で答えることこそ、空の「結婚したい」の返事だった。
結婚報告を幼馴染の藤川沙菜(岡田結実)にしているとき、空は言う。「怖いよ、今でも。一瞬一瞬が怖い。美璃といる時間を失いたくない。けど、そう思えるんは幸せなことやってわかったんや」と。空のこれまでの想い悩みの先には、人生のネクストステージの扉を開けようという固い意志が感じられた。
そんな美璃と空の気持ちとはよそに、美璃の母・ゆかり(加藤貴子)は結婚に猛反対する。ゆかりは、記憶を失う可能性のある空とでは幸せになれないのでは、子供ができたらどうするのかと現実問題を突きつける。美璃は、「(結婚するのは)1分1秒でも彼と一緒にいたいからだよ。それが私の幸せなの」「空に会って、救われたの。生きている今の一瞬一瞬が大切なんだなって(思った)」と決意と愛を表明する。当たり前の日常こそが大事で、一緒に生きたいと思える相手と出会った美璃の言葉は、ゆかりを動揺させる。そう、ゆかりの期待に応えられず挫折してしぼんでいた美璃は、もういない。空と出会い自分を認めてあげられたことで、彼女は強くなったのだから。
その後、ゆかりは結婚を許し、美璃と空はめでたく夫婦になる。半年後には子供も授かり、日常は順調で彩られていた。この期間に、保(風間俊介)と沙菜の仲は近づき、茜(畑芽育)も元彼と復縁、理佐子(檀れい)も東京で新しい人生を踏み出すなど、全員が幸せとなっていた。めでたし、めでたし…というところに、エンディングでタイトルを回収するかのような驚きの展開が待っていた。
ある朝。目覚めた空はぼーっとした表情でリビングに下りていく。リビングのテレビに映っているのは、美璃が廃墟で二人の思い出であるオリジナル曲を弾いている姿。何の感情もない瞳で画面を見つめる空…。やがて子供が下りてきて空の隣に座り、よっかかって眠るが、空は無反応のままだ。続いて美璃もやってきて逆サイドに座り、そっと空の手を握る。ややあって、空はその手をそっとひっこめようとする…。この数年は何の問題もない生活を送っていたはずが、この日突然、“それ”はきてしまったのかもしれない。
このシーンで終わりだと何ともザラついた気持ちに陥るところだが、その後、空が美璃の手をしっかり握り直す。そう、空がゆかりに言っていた「美璃さんのことも出会った後、僕1回忘れてるんです。でもまた会って、また好きになりました。忘れていても、なんか覚えてる。においとか手の感触とか、なんか初めて会った気がしなかったんです」という発言を実証したのだ。きっと空は起きたときにすべてを忘れてしまっていたはずだが、におい・手の感触や空気で美璃自身を感じ取ったのだろう。
美璃は、「たとえ空が私を忘れても、私はずっと空のそばにいるから」と言い続けていた。そのアンサーとして、タイトルの『たとえあなたを忘れても』という空側の視点が活きてくる。『たとえあなたを忘れても』の後に続く空からの言葉は、「あなたと、また恋に落ちる」なのではないだろうか。引き寄せ合う二人が紡いだ物語は最後まで美しく、希望の痕が残った。
(文・赤山恭子)
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