独占入手!~脚本家が作成したメモ~第一弾・中田ユメ編/これさえ読めば“沼る”ドラマ「エラー」の登場人物が理解できる!!

畑芽育&志田未来がW主演を務めるドラマ『エラー』(ABCテレビ・テレビ朝日系列 毎週日曜よる10時15分放送)は、とある女性を死なせてしまったユメ(畑芽育)と、その死により生きる意欲を失ってしまった女性の一人娘・未央(志田未来)が、真実を知らないまま友情を育んでいく物語である。
本作の脚本を手がけたのは“シナリオ界の芥川賞“ともいわれる城戸賞で佳作を受賞した弥重早希子氏。そんな弥重氏自身も一筋縄ではいかない物語と語る『エラー』は、1話ごとに登場人物たちの過去や裏の顔、嘘などが明らかになり、放送のたびに、「先が読めない」「”取り返しのつかなさ”を描くのが上手すぎる」と大きな反響が…

そこで今回、視聴者の反響を受けて、ABCマガジンでは弥重氏がドラマ『エラー』の脚本を書くにあたり作成した各登場人物のバックストーリーを独占入手。ユメ、未央、佐久間(藤井流星)・美郷(榊原郁恵)というキャラクターがどのようにして生まれたのかが書かれており、ドラマ本編の謎を解くきっかけとなりそうだ。TVerでは、第1話から4月26日(日)に放送された第3話まで無料配信中。これで、ドラマの真相により近づけること間違いなし。第一弾は、畑芽育演じる中田ユメ編をお届けする。

【ドラマ“エラー”バックストーリー 中田ユメのこと】
「まーた間違っちゃった」
台所から母ちゃんの声が聞こえてきたので、幼いユメは宿題の手を止め、台所を覗く。
「お醤油、入れすぎちゃった」と母ちゃんがペロッと舌を出す。料理が下手な母ちゃんは、いつも分量を間違える。その度、「まーた間違っちゃった」とユメに笑ってペロッと舌を出す。そんな母ちゃんの笑顔が、ユメは好きだった。あっちゃーって感じ。でも何か楽しい冒険が始まりそうな、そんな母ちゃんの笑顔は、とても可愛かった。
「チンジャオ天津にしてみたよ」
醤油を入れすぎて真っ黒になった青椒肉絲に、母ちゃんは薄焼き卵を乗せる。料理の失敗をなかったことにすることが、母ちゃんは得意だった。本音を言えば、そこまで美味しくはないのだけど、「辛くないって思えば辛くないよ? ほら、卵ふわふわ」と母ちゃんが笑うのを見ると、ユメは味なんかどうでもよくなった。母ちゃんと笑って食べることができたら、間違っちゃった料理は、ちっとも間違いじゃなくなったのだ。
ザクザクザク、とキャベツを刻む音が聞こえてきて、ユメは我に返る。
「まーた間違っちゃった」
母ちゃんの声が聞こえた? いや、聞こえていない。ユメは手元を見る。千切りキャベツが大量にあるそこは、今現在ユメが、太郎と暮らす家の台所だ。
ザクザクとキャベツの千切りをしているのはユメ自身だった。でも、どうして?
時計の針の音が聞こえる。何時だ? 外はまだ薄暗い。
「おはようございます」と男女のアナウンサーがハモる声。6時です、と告げて一旦、明るい朝を始めるらしい。特集では朝から焼肉食べ放題を紹介すると張り切っている。
「昨日、栄昭第2ビルの屋上から女性が転落し……」
カルビに騒いでいたはずの女子アナが神妙な声色でそう告げる。ユメはテレビを見る。
……昨日、あそこにいたんだろうか? いたとしたら、どうやって帰ってきたんだろうか?
台所の隅っこに放り出されたままの鞄が目に入る。ユメは、恐る恐る鞄から『未央へ』と書かれた封筒を取り出した。『母・大迫美郷』と裏にはある。
見慣れたカーテン、吊るしっぱなしの洋服、太郎とあの日撮った証明写真。
全部知っている部屋の景色に、この封筒だけが似合わない。
そこにあるはずがないものが存在していることは気持ちが悪い。たとえば、お風呂場に醤油があるような、そんな感じ。この封筒は、この部屋にあるべきじゃない。
……どうやって帰ってきたんだろうか?
ユメの脳裏に断片的な記憶が蘇る。ケンケンが真剣な目でこちらを見ている。
「大丈夫だから!」鈍い音。
「なんで遺書、置いてこなかったの?」赤黒い塊。
「いや、捨てるしかない」放り出された左右が違う靴。
「逃げよう」倒れている男の人。
「何これ、朝からトンカツ?」
あくびをしながら起きてきた太郎の声でユメは我に返り、咄嗟に封筒を鞄にしまう。
太郎は、そんなユメには気づかず、テレビの前に座る。あのニュースはもう終わっていて、女子アナは花粉症の心配をし始めていた。あくびをしながらテレビをぼーっと見る太郎を見て、ユメは朝ご飯を作ろうと思う。料理をすれば無心になれる。子供の頃からそうだった。
「あー、また間違っちゃった」
母ちゃんがそう言って舌をペロッと出すのを最後に見たのはいつのことだっただろうか。
父ちゃんのことがあってから、母ちゃんは料理をほとんどしなくなった。間違うことも間違いを卵でなかったことにすることもなくなった。母ちゃんだけ外食をしてくることも多くなり、ユメは太郎のために料理を作るようになった。母ちゃんと違ってユメは料理が得意だった。色々なことを考えてしまう時にお米を研いだり、胸がズキンと痛む時にキャベツを千切りにしていると、不思議と心が落ち着いた。
「あれ、トンカツは?」出されたいつもと同じ朝食を見て、太郎は言う。
ユメは咄嗟に答えられなかったが、「トンカツ屋でさ、キャベツおかわり自由って時、テンション上がるよな」と太郎も気にせずに、いつも通りどこか間の抜けたことを言っている。
大丈夫、大丈夫。いつもと同じ景色じゃないか……。
ユメはそう思うことで、脳裏に蘇る昨日の出来事を追い払おうとする。
「大丈夫だから!」鈍い音。
「なんで遺書、置いてこなかったの?」赤黒い塊。
「捨てるしかない」放り出された左右が違う靴。
「逃げよう」倒れている男の人。
太郎を学校に送り出した後、ユメは、『未央へ』と書かれた封筒を再び見つめる。
「捨てるしかない、大丈夫だから」ケンケンはそう言っていたが、『未央へ』の文字を見つめていると涙が溢れてきた。警察に電話しよう。そう思った瞬間、幼い頃のあの記憶が蘇る。
夕焼け小焼け、受話器、父ちゃん……。またあの時と同じ。取り返しがつかない。
そう思ったのを打ち消すように、『未央へ』と書かれた封筒を戸棚の引き出しの奥へと仕舞い込んでいた。
捨てられないけれど、見たくはない。できれば、なかったことにしたい。
そこにあるはずがないものを、視界から消したかった。
台所に戻ってくると、昨日帰ってきてから無意識的に刻み続けたキャベツの千切りが、まな板の上、そのままになっていた。

ドラマ『エラー』は、ABCテレビ・テレビ朝日系列で毎週日曜夜10時15分放送。放送終了後、TVerで見逃し配信。



