小児がんと闘った兄弟の8年間「いまを大切に、全力で生きていく」 弟を支え続けた兄が踏み出す新たな一歩“きょうだい児”に寄り添うプロジェクトとは?
大阪・豊中市に住む土井颯大さんは高校1年生。中学1年生の弟・大地くんは5歳のころ、小児がんのひとつである難治性の神経芽種を発症。このときから、抗がん剤治療や手術で病院と家を往復する日々が始まりました。
母・かおりさんはいつも大地くんと付き添い入院。颯大さんも病室を訪れ、弟を励まします。颯大さんが見舞いに行くと「お兄ちゃんが来てくれたから」と元気になる大地くん。お兄ちゃんが大好きなのです。
そんな兄弟にとってかけがえのない場所が、大阪・鶴見緑地公園にある民間小児ホスピス「TSURUMIこどもホスピス」。個人や企業からの寄付で運営され、命に関わる病気や障害のある子どもとその家族が無料で利用できます。
颯大さんと大地くんはそこで卓球をしたり、一緒にお風呂に入ってはしゃいだり。兄弟が「好きなようにいっぱい遊べる」この施設は、2人にとっての「もうひとつのおうち」になっていきました。
そして何度も再発をくり返すがんと闘い、迎えた小学校の卒業式。大地くんは「いまを大切にして、全力で生きていきます」と宣言しました。どんなに辛くても治療を続ける覚悟を決めていたのです。
一方、「弟に何もできてない」という思いに苦しむ颯大さん。病気や障害のある兄弟姉妹を持つ“きょうだい児”は、親がきょうだいのケアに追われる中で、孤立感や罪悪感など複雑な思いを抱きやすいとされています。颯大さんもまた自分の中にある「罪悪感」と闘うすべを探していました。
そんななかで見つけたのが「レモネードスタンド」。レモネードを販売し、その収益を小児がん支援につなげるという、アメリカから世界に広がった取り組みです。颯大さんは、きょうだい児たちが集まってレモネードを売り、収益を「こどもホスピス」に寄付するプロジェクトを立ち上げました。
9月下旬、颯大さんの家ではレモネードスタンドの準備がにぎやかに始まっていました。集まったのは、イギリス出身のテイム・ギャレスさん一家とその友人たち。テイムさんの11歳の二男は、大地くんと同じ病院で知り合った、ともにがんと闘う仲間です。
【動画】レモネードも手作りなら、お客さんを呼ぶ“のぼり”も颯大さんが自らデザイン。
きょうだい児たちが小児がんの支援に取り組むこのような活動がもっと広まれば、「何もしてあげられない」と悩む多くのきょうだい児たちを救うことになるのでは、と颯大さんは考えたのです。
レモネードスタンドは10月14日、テイムさんが住む丹波篠山市で開かれることに。ところが、10月に入って大地くんの体調が悪化し、7日に緊急入院。9日の朝に空へと旅立ちました。
そして14日、丹波篠山には、前日に告別式を終えたかおりさん、颯大さんの姿が。「大地の分も今日がんばりましょう!」という颯大さんのかけ声で始まったレモネードスタンドには、大地くんと一緒に病気と闘った仲間などたくさんの人が駆けつけました。
レモネードの売り上げと募金で集まったのは、およそ33万円。この日の盛況は「大地がいたからこそ」と話す颯大さんは、小児がんの子どもたちのため、きょうだい児のために活動を続けていくと決意を語ってくれました。「全力で生きること」の尊さを教えてくれた大地くんは、いま、お兄ちゃんの力になっています。
ともに小児がんと闘った兄弟の8年間は11月5日(火)放送の『newsおかえり』(毎週月曜〜金曜午後3:40〜)で紹介しました。