日曜夜10時全国ネット新ドラマ『たとえあなたを忘れても』。主人公の友人を演じる森香澄が語るアナウンサーと役者の違いとは。そして、いつか悪女を演じて観る者の感情をゆっさゆっさに揺さぶりたいと想う真意とは。
ABCテレビが贈る日曜夜10時の全国ネットドラマ枠第3弾は、浅野妙子のオリジナル脚本で描くヒューマンラブストーリー『たとえあなたを忘れても』。神戸を舞台に、夢に挫折して現実から逃れるように東京から引っ越してきた美璃と記憶障害がある空との恋が描かれる。
美璃の音楽大学時代の同期でピアニストとして活躍するまりあを演じるのは森香澄。今年の春にテレビ東京のアナウンサーを退職して、フリーとして新しい道を歩む彼女。元々、お芝居に挑戦したい気持ちはあったというが、たった半年でドラマのレギュラー出演する事への素直な想いを聴いてみた。また、アナウンサーと役者という仕事の違いによる気付きについても話してくれた。
―記者会見で森さんが司会の方を観ながら、「半年前までは、あの場所にいました」と言っていたのが、本当に印象的でした。森さんにしか言えない言葉ですよね。
「本当に全く違う環境になったなと思ったんです。半年前では想像がつかない目まぐるしい環境の変化ですし、立場も発言する内容も変わりました。半年前までは人に話を振るのが仕事でしたけど、今は自分の意見を言う側になっていますから。記者会見では、これまでは司会としてどういう順番で話を振るかを考えていたのに、今は司会の方から『最初のご挨拶を』と言われて、『何を言えばいいの!?』となってしまう側です(笑)。今まで司会として『一言お願いします』と振っていましたけど、今は『一言って何を言えばいいの!?』ですから! あと、『いかがですか?』と何気なく振っていましたけど、そう自分が振られると『いかがですかって何?!』となります。 でも、そういう言葉の意味合いの大切さを逆の立場になったからこそ気付く事ができました。今でもアナウンサーとして司会の仕事もしますので、この経験が生きたりします。話を振られる側の立場になって、司会の仕事を考えられる様になりました。自分の意見を言う機会なんて無かったですから、今は自分と向き合うきっかけにもなっています」
―今回、ドラマ初レギュラー出演の話を聴いた時は、どう感じられましたか?
「最初は役を頂いたという事が嬉しくてありがたい気持ちでしたけど、不安もありました。ピアニストの役なんですが、私も3歳からピアノを始めてピアニストを目指していた時期もあったので、そこは、気持ちがわかる部分もあるのかなと思いながら役作りをしました。」
―そんなに本格的にピアノを習われていたんですね。
「ピアニストになるコースに通っていて、毎日3から5時間ピアノを弾く事は当たり前でしたし、小さい頃はピアニストになるんだと思っていましたね。」
―実際にピアニストの役を演じられて、ピアノを習っていた時との違いはありましたか?
「高校生くらいまでピアノを弾いていましたが、プロの大人が弾くピアノは格段にレベルが高くなります。なので、弾き方や見せ方は意識しました。でも、それは私の中にピアニスト像があったからこそ、想像がついたと思います。」
―今年、一度ドラマに出られていますが、その時とは全然違いましたか?
「前回はアナウンサー役で、ワンシーンですし、そんなに感情を使う役柄では無かったですから。今は、自分とは違う感情の動き方で、すり合わせていく感じですね」
―いわゆるテレビ局のアナウンサーを退社して、フリーになられた時に役者をしたいという思いもあったんですよね?
「ドラマは元々好きなので関わりたい気持ちはありました。局のアナウンサーだとあまりドラマに関わる事は無いですから、退社する時に決めたのは、お芝居をやりたいという事でした」
―よく考えると、退社して半年で、もう役者としてのオファーがあるという事は凄い事ですよね。
「退社してすぐ、日常が目まぐるしく変化している中でオファーを頂いたので、本当に驚きましたね。お芝居の仕事はしてみたかったですけど、実現するのは退社して1年くらい経ってからかなと考えていました。」
―過去のインタビューで、向き不向きでは無くて前向きという気持ちが大切だとお話しされていて、その気持ちがお芝居をする事にも生かされているのかなと思いました。
「オファーを頂いた時点で不向きと考えるのは失礼なので、前向きにいくしかないと思っています。ずっと前向きに進んでいたら、いつか、やってみたい事のオファーももらえるかも知れないですから。好きなことと向いていることが一緒になれば良いなと思いますね」
―共演者の方々とは、どんな感じで撮影されていますか?
「ひとりのシーンが多いんですけど、ひとつの作品を作っているという意識はあるので、仲間意識は生まれていますね。元々、誰かと一緒にモノづくりをするのが好きなんです。バラエティーと違ってドラマは何か月もかけて積み重ねていく作業が新鮮です」
―逆にバラエティーをやってきた事で生かされている事はありますか?
「度胸ですかね(笑)。ずっと生放送をやっていましたから。ドラマは生放送じゃないという安心感はあります(笑)。そう自分に言い聞かせているところもあるかな。バラエティーは正解が無くて、その場で生まれたものを楽しむ感じですが、ドラマは監督とすり合わせて模索して作っていくので、やはり全然違いますね。私が役になりきるというよりは、その役を一緒に作っている感覚なので、自分だけで考え込まずに監督やスタッフの方に頼るようにもしています」
―今回の撮影地は神戸ですが、今までも来られた事はありますか?
「神戸は旅行で何回か来た事があって、山も海もあって、洋館もあって、とても景色が綺麗です。今回のドラマは柔らかくて透明感がある物語なので、神戸と合っているなと思いますね。ずっと東京で暮らしてきたので、景色が全く違いますし、神戸にいると遠くを観たくなります。今は神戸に来ると『よし!やるぞ!』という気持ちにもなれますね」
―以前、インタビューで悪女を演じてみたいとお話しされていたのも、何だか強烈なワードで凄く覚えています。
「その部分だけ切り取ると『何だろ?!』と思われますよね(笑)。あのお話をした理由は、感情が動く役をやってみたいという事だったんです。悪女って憎しみや苦悩や色々な感情があるじゃないですか。元々、私自身、感情が動くタイプなので、お芝居でも感情を動かしてみたいなって」
―そんなに感情が動くのですか?!
「はい(笑)。すぐ泣いて、すぐ怒って、すぐ笑っての繰り返しです、小さな頃から(笑)。ずっと母親からも『感情が忙しい!』と言われていました! だからこそ、自分の人生だけでは無い感情を感じてみたいので、お芝居をしたいと思いましたし、悪女を演じてみたいと思いました。だって、私の人生はそこまでの紆余曲折が無いですから」
―充分にありますよ! 退社されて、半年でドラマに出るんですよ(笑)。
「確かにそうですね(笑)」
―でも、感情表現が豊かというのは、お芝居に絶対に生かされますよね。
「すぐに何かを観て泣いたりという事を、より大事にしていますね。今でも、よくミュージカルを観に行っては、すぐに泣いていますから!」
―最近、特に泣かれた物語ってジャンル問わずでありますか?
「う~ん…、『7番房の奇跡』という韓国ドラマですからね。切ないじゃ片付けられなくて、ゆっさゆっさに感情を揺さぶられます。泣きすぎて、仕事に支障をきたすくらいに泣いてしまうので、翌日デートある時は観ない方がいいです(笑)!! そこまでゆっさゆっさに感情を揺らせるくらいのお芝居を出来たら良いなとも思っていますね」
ドラマ「たとえあなたを忘れても」は日曜22時からABCテレビ・テレビ朝日系列で放送中。
取材・文/鈴木淳史