障害を抱える娘のためにも…厳しい現実を知ってほしい!福祉業界の深刻な「人手不足」と「低賃金」に立ち向かう父!
深刻な人手不足に悩む福祉の現場。施設の職員として、また障害のある娘の父親として、厳しい現実に向き合い、人材確保に奮闘するひとりの男性に密着しました。
大阪府吹田市の「さつき福祉会」は、国の福祉サービスとして、障害のある人たち約400人を支える社会福祉法人。利用者が内職の仕事などに取り組む「作業所」や、介助つきの住まい「グループホーム」など、36の福祉施設を運営しています。
江見和則さん(51)は「さつき福祉会」に勤めて、30年を超えるベテラン職員。作業所の「副施設長」と法人の「人事・採用担当」を兼務していますが、江見さんは、仕事の上で、難しい問題に直面しています。
それは、退職者が多く、職員を採用するのも難しいということです。さつき福祉会では、毎年、学生アルバイトを含む100人ほどの職員が退職するというのです。その数は全職員の2割弱。江見さんは、その穴を埋めるため、採用活動に常に追われているのです。
【動画】求人業務は、パンフレットやチラシの作成、就職イベントへの参加、職場見学の開催など多岐にわたります。
「さつき福祉会」で重要な役割を担う江見さんは、実は利用者側の立場でもあります。ひとり娘の結希乃さん(18)は生まれつき心臓に疾患があり、最重度の知的障害も。常に見守りや介助が必要で、自宅では妻の敏恵さん(48)がつきっきりで支えています。
結希乃さんはこの春に支援学級を卒業し、4月からは「さつき福祉会」の作業所に通う予定です。結希乃さんのような新たな利用者も増えるなか、さつき福祉会では、慢性的な人手不足で、職員の負担が増えているという現実があります。
さつき福祉会では、年に1度、法人内の労働組合と経営陣が向き合う「団体交渉」が開かれます。
去年は、12月に、団体交渉が行われました。組合側が経営側に、事前に提出した16の要求は、その多くが“人手不足”に関わるものでした。マンパワーが足りず、職員の業務や、精神的な負担が増えているのです。
経営側として交渉の席に着いた江見さんは、「人員の補充を検討していく」との回答を出したものの、なかなか人が集まらない現実を前に、早急に解決するのは難しいと感じていました。
若い職員からは、切実な訴えが。この物価高、奨学金の返済も抱えながら生活していくには、現在の手取りでは厳しいというのです。「賃金を上げてほしい」という率直な願いに対し、経営者らは苦渋の表情を浮かべます。障害福祉事業は利用者を支えたことに対し、行政から報酬が支払われる仕組み。つまり、行政からの報酬が上がらなければ、職員の賃金アップは難しいのです。
厚労省の統計によれば、福祉職の1か月の賃金は、全業種の平均よりも5万円ほど低く、これが人手不足の原因になっているともいわれています。「賃金の低さ」と「マンパワーの不足」。「さつき福祉会」の悩みは、福祉業界全体の問題でもあります。
去年10月の衆議院本会議で、石破総理は「介護・障害・保育の現場においては、人材の確保がきわめて重要」とし、「福祉等の現場で働く方々の処遇改善に、誠実かつ着実に取り組む」と明言。しかし現場からは、問題の根本的な解決は難しいのではないかと、声が漏れています。
「福祉の働き手が足りない」という重い現実。江見さんは多くの人に知ってほしいと訴えています。福祉の仕事の価値を社会がしっかりと認識し、国に「ちゃんとお金を下ろして(出して)もらう」。厳しい労働環境を改善することこそが、障害者を支える確かな力になると考えています。
福祉の現場の“人手不足”問題は、2月27日(木)放送の『newsおかえり』(ABCテレビ 毎週月曜〜金曜午後3:40〜)で紹介しました。
