田中美佐子 「生きるって、こういうことかな」
Z世代の新米教師が、高校3年生のクラス担任になって奮闘する『素晴らしき哉、先生!』(ABCテレビ・テレビ朝日系全国ネット)。生田絵梨花が地上波連続ドラマ初主演を果たし、『花より男子』シリーズ(05年〜/TBS系)などを手掛けた宅間孝行が脚本・演出を務める“日10”ドラマです。
生田演じる主人公・笹岡りおの母・奈緒を演じるのは、『Age,35 恋しくて』(96年/フジテレビ)、『ランデヴー』(98年/TBS)、『OUT〜妻たちの犯罪〜』(99年/フジテレビ)などのドラマに主演してきた女優・田中美佐子。今回のインタビュー前編では、『素晴らしき哉、先生!』への向き合い方や26年ぶりの共演となる夫役・高橋克典の当時から変わらない素顔について聞きました。
——『素晴らしき哉、先生!』の出演オファーを受けたときは、どのように思われましたか。
宅間(孝行)さんの作品なら、私は無条件に「やります」という感じなので、迷わずお引き受けしました。
——宅間さんとは、「TAKUMA FESTIVAL JAPAN(タクフェス)」の舞台『流れ星』(19年)に主演されて以来のお付き合いですか?
そうです。その後に、もう1つ明治座で一緒に舞台をやっています。プライベートでも仲が良くて、金田明夫ちゃんと3人で年に2回は必ず会って、たくまっちの手料理を食べさせてもらう(笑)。その料理が、めちゃくちゃ美味いんです。
——作家としての宅間さんの魅力は?
私がすごいと思うのは、 ものすごく下調べをするところ。例えば私が「この時代に、こんなセリフあり得ないんじゃない?」とか言うと、「いや、その年には流行りでみんなこういうことを言ってて……」と、細かく全部調べてるんですよ。他の作家さんも勉強するのでしょうけど、その度合いが半端じゃない。
——今回の『素晴らしき哉、先生!』の脚本を読まれていかがでしたか。
私、いつも台本は自分が出るところしか読まないんです。めんどくさがりなので、一冊読めない(笑)。でも今回は本当に面白くて、最初から最後まで読めました。久々に「面白かったー!」って思いましたね。
——どういうところが面白かったんでしょう?
この作品は、学校の先生がメインのテーマになってますけど、いろんな職業に置き換えても楽しめると思うんです。例えば、生田さん演じる主人公のりおには、仕事でもプライベートでも、つらいことが怒涛のように押し寄せてくる。「人生、地獄だな」と思っているけれども、その度合いが激しければ激しいほど、生きている実感が持てるところがあると思う。後から振り返ると、自分にとって、一番良い時期だったりするんですよね。
——ご自身の人生も、大変なときのほうが充実していましたか?
そうですね。だからりおも、「くそー!」と思いながら必死に生きているときが、すごくいきいきしているように見えます。そういうことが脚本に細かくリアルに描かれていて、「生きるって、こういうことかな」「生きてるって素晴らしいな」と思ったりしました。
——笹岡奈緒役については、どんな役作りをされましたか。
私ね、役作りって、やったことないんですよ。台本も自分のところだけ読んで行くくらいなので。今回も、「ああやって、こうやって」と宅間さんに言われることに順応しながら演じていければと思っていました。ただ、宅間さんも伝えることが苦手なのか、途中で何を言ってるのかわかんなくなっちゃうことがあるんですよ(笑)。だから初日は、奈緒がどういうタイプの人なのかわからなくなって混乱しました。
私は家族4人のシーンが多いんですけど、初日に助け合いながら芝居をしたからか、次に会ったときはもう息が合って、普通の家族みたいになってました。ただ、宅間さんは必ずワンシーンワンカットで撮っていくので、今もみんな緊張してると思います。
——芝居を、カットを割らずに長廻しで撮るんですね。
そう。宅間さんには「NGだと思っても、そのまま芝居を続けて」と言われますが、私はセリフを間違えたら素に戻ってしまうので、絶対に噛まないようにセリフはとことん練習していきます。
——笹岡家のシーンは、掛け合いのテンポが速いですね。
宅間さんに「遅い。もうちょっとテンポよく言って!」とか、「なんでそこに行くまでに時間かかるの?」とか言われるから。私は普段から喋りが速くて、娘にも「会話に追いつけない」と言われるくらいなんです。ただ、この作品の前にゆったり話す舞台をしていたこともあって、今回は余計に速く感じます。(夫役の高橋)克典さんに「ヤバイ、私、ついていけないかも」と言ったら、「速いでしょ? 俺も初日にびっくりしちゃってさ」って。
——高橋克典さんとは、1998年の『ランデヴー』以来、26年ぶりの共演ですね。
ああ、そんなになりますか。あの頃は、彼もまだ若くて、すっごくモテてる時期で。しょっちゅう飲んでは、お酒臭い状態で現場に来てたんです。ある日、撮休(撮影がない日)だと勘違いして、現場に来なかったことがあって。2時間くらい遅刻してやってきたから、スタッフは怒ってる。現場の雰囲気も怖すぎたから、スタジオの入口で土下座したんですって。私は人が遅刻しても絶対に怒らないと決めていたから、全く記憶にないんですけど(笑)。
——高橋さんとは久しぶりの共演で、お互いの変化を感じたりしましたか?
克典さんは、いろいろ変わったと思いますよ。でも私は全く変わってないみたいで、「落ち着きがないままだ」と。会見でも「美佐子ちゃんの落ち着きがすぐになくなってきたから、『ヤバイな』とずっと思ってた」って言われました(笑)。私、自分の出番がなければ、早く帰りたいと思っちゃうタイプなんですよ。
——会見では、(教頭役の)柳沢慎吾さんがマイクを持つと、盛り上がってましたね。
そうそう(笑)。彼の話はもう何十年も聞いてるから、「ここで、こう言うだろうな」と手に取るようにわかるのよね。「やるなら、私のいないところでやって!」と思ってました(笑)。
——そういう正直なところも、高橋さんから見ると変わってなかったのではないでしょうか?
どうでしょう。ただ、「変わんないよね〜。表に出ても変わらないもんね、普段と」と言われましたね。
【田中美佐子 インタビュー後編 「私、人に嫌と言えないタイプなんですよ」】
取材・文/泊 貴洋
【第3話あらすじ】
世間はゴールデンウィーク。だが、部活の副顧問を受け持っている笹岡りお(生田絵梨花)に休みはない。教えることが好きで、母・奈緒(田中美佐子)の反対を押し切ってまで就いた教職だったが、今では、家族旅行もできずやりがいを搾取されているとの奈緒の言葉が正論すぎて、りおには返す言葉もない…。
そんなある日、父の秀樹(高橋克典)が好調な企業の社長としてテレビに取り上げられる。番組を見た3年C組の生徒たちは大盛り上がり。その中で沢井谷玲奈(茅島みずき)だけは、スナック「ナツコ」で素性を知らずに接客した相手が秀樹だったことに気づき、一人不安を抱き始める。
一方で保護者たちは、りおが有名企業の社長令嬢と知るや、これまでの態度を一変。三者面談は意外なほどスムーズに運ぶ。そんな中、山添快斗(葉山奨之)の奔走の甲斐あり、大木戸光源(小宮璃央)の父・勝次(永井大)との面談日がようやく決まる。場所は学校ではなく光源の家。裏社会の人間との噂がある勝次との面談には、「絶対に一人で訪問しないように」と中路克博(柳沢慎吾)から忠告されており、りおは緊張の中、快斗と二人で光源の家へと出向く。
しかし、そこに勝次の姿はない。二人は渋る光源に、勝次の仕事場へと案内をさせるが、街の雰囲気はどんどんといかがわしくなり…。
ドラマ「素晴らしき哉、先生!」は、ABC・テレビ朝日系列で毎週日曜よる10時放送。放送終了後、TVer、ABEMAで見逃し配信。U-NEXT、NETFLIXにて2社独占配信。