渡邉美穂扮する梨沙の変装作戦で火蓋を切ったチームCAT総動員の痛快強奪劇!そのウラ側にある依頼者・小夜子(穂志もえか)の心象も丁寧に描き出す『あなたの恋人、強奪します。』(第3話)
“痛快略奪エンターテインメント”と銘打った作品であることが腑に落ちた『あなたの恋人、強奪します。』第3話だった。最後まで観終えてみると、痛快さと爽快さに加え、じんわりとした人間ドラマがしっかりと描かれている。そう感じた視聴者も多くいらっしゃったはず。
ヒナコ(武田玲奈)のケレン味タップリな“泥棒猫”っぷりに加え、梨沙(渡邉美穂)の大胆&ド派手な変装、陽介(渡邊圭祐)のコミカルな一面などCATメンバーの茶目っ気を描きながらも、女グセの悪い医者・杉原(猪塚健太)の略奪を依頼した小夜子(穂志もえか)の心象を丁寧にとらえた演出で、ラストシーンは予想外にも心に染みるものだった。
小夜子が杉原と別れたかった本当の理由は、元カレである真一(小林大斗)との復縁。これまで、何度も新しい彼と付き合っては別れるたびに受け入れてくれた真一のことを、小夜子は「私の“青い鳥”なんです」とヒナコにこっそりと告げる…。そう、『青い鳥』とは、モーリス・メーテルリンクによる童話劇で、チルチルとミチルの幼い兄妹が“青い鳥”を探す旅に出る物語だ。
“青い鳥”は身近にある“幸せ”の隠喩でもある。小夜子にとっては、いつでも味方だった真一との未来こそが願いだった。そう読み解いてみると、女性看護師である小夜子という名前にも意味が感じられてくる。女性看護師の美称でもある“ナイチンゲール”は、別名ヨナキウグイスという鳥のことで、夜でも鳴き声が美しいことから小夜鳴鳥(さよなきどり)とも呼ばれている。ドラマでは、恋という冒険に出ては痛い目をみてしまう小夜子(=ナイチンゲール)と、“青い鳥”の対比が描かれているように感じられた。例えば、強奪という奇をてらった手段ながら、小夜子を導く存在となったヒナコと陽介は、“青い鳥”のような存在だったのではないだろうか? 二人が小夜子と向き合うシーンでは“青い服”を着ていたことも印象的だった。
なお、第2話・第3話の原作は『泥棒猫ヒナコの事件簿 別れの夜には猫がいる。』に収められている『夜啼鳥(ナイチンゲール)と青い鳥』。ドラマとは一味違う小説ならではの展開と読者を惹きつける軽妙な筆致が魅力で、原作・ドラマどちらからでも楽しめる。気になった方はぜひ手に取ってみてほしい。
さて、終盤に向けて物語はメーテルリンクの『青い鳥』に込められたメッセージとリンクするように展開していく。チームCATの強奪作戦によって、小夜子は付きまとわれていた杉原から解放され、悩みの種だった杉原と副師長・由紀恵(山田キヌヲ)との三角関係も、わだかまりを解くことができた。しかし、小夜子の願いだけは、叶わない。
晴れて真一の元へと向かった小夜子だったが、すでに彼は引っ越した後。電話さえつながらなくなってしまっていたのだ。小夜子の前から姿を消した真一。それはまるで、チルチルとミチルが冒険の果てに手に入れた青い鳥が、窓から羽ばたき飛んで行ってしまうように。
ヒナコから手渡されていた『青い鳥』の絵本を読み返すラストシーン、小夜子は絵本に挟まれていた住所の書かれていない封筒を見つける。そこには、小夜子の背中をそっと押すように“青い鳥”の切手が貼られていた…。
当たり前のように身近にある“幸せ”に気づかないまま過ごしてしまうのか、気づいたとしても手には入らないものなのか、それとも…。改めて『青い鳥』を読んでみたくなる、そんな気分に浸る観終わり感だった。
ヒナコ(武田玲奈)たちチームCATの痛快な強奪劇のウラ側にある、依頼者の心象も丁寧に描き出していく『あなたの恋人、強奪します。』は、TVer・ABEMAで無料見逃し配信中。
<文・ニノマエヒビキ>