売れない俳優を演じる松尾諭　「僕もあの作品でバイトを辞められると思ったけど…」

2025.07.27

映画『百円の恋』や連続テレビ小説『ブギウギ』（NHK）を手掛けた足立紳が、自身の日記をベースに描くホームドラマ『こんばんは、朝山家です。』（ABCテレビ・テレビ朝日系列　毎週日曜夜10時15分）。脚本家の夫・朝山賢太を小澤征悦、その妻・朝子を中村アンが演じ、SNSでは「家族の日常をリアルに描いていて面白い」「中村アンの『キレる妻』の演技が新鮮」といった声で賑わっています。

本作にて、賢太の学生時代からの親友で、朝子が経営する芸能事務所「ASAYAMA」に所属する売れない俳優・中野智明役を演じているのは、松尾諭。今回のインタビュー前編では、役への向き合い方や、デビューから25年の軌跡などを聞きました。

――『こんばんは、朝山家です。』のオファーを受けたときのご感想は？

監督・脚本の足立さんは、僕のエッセイを原作にした『拾われた男 Lost Man Found』（22年／Disney+、NHK）というドラマの脚本を手掛けてくださっていたので、ついに監督としての足立さんと仕事ができるなと思いました。そして『拾われた男』では仲野太賀くんが僕の役をやっていて、今回の僕の役名が中野だったので、一瞬、僕が仲野太賀の役をやるのかなと（笑）。まあ、全く違う役でしたけどね。

――売れない俳優・中野智明役は、どんなことを意識して演じられていますか。

特に意識せずにできましたね。「売れない俳優」なので、そのままでいけるなって（笑）。まあ、最初に台本を読んだ感じでは、もうちょっとジトーッとした役なのかなと思っていたんです。仕事もないし、少し暗い人なのかなって。でも小澤さんたちと芝居をしていると、そんな考えがどっか行って、明るく芝居しちゃって（笑）。終わって足立さんに確認したら、「全然大丈夫です」ということだったので、現場の空気で役を作ってもらえたのかなと思います。

――小澤さんとは以前も共演されたことが？

2回目ですね。前もダメな男同士みたいな役だったので、その2人がそのまま成長したような感じで、芝居ができたんじゃないかな。小澤さんは、お父様が大変有名な方ですが、よく言えば「気さく」、悪く言えば賢太のように「残念」みたいなところがあるし、歳も近いので丁々発止もやりやすかったです。

――朝子役の中村アンさんはいかがですか。

プライベートでたまたま一緒になったことはあるのですが、共演は初めて。キャスティングを聞いたときは、モデルになっている（足立）晃子さんと全く違うタイプの人やなと思ったんですけど、現場に行くと、ちゃんと朝子としていらっしゃって、ガーッと怒る場面も嫌味がない。素晴らしいなと思いました。

――発達障害を抱える朝山家の長男・晴太役の嶋田鉄太くんとも共演シーンが多いですね。

彼は、足立さんの前作『それでも俺は、妻としたい』（25年／テレビ大阪・BSテレ東）でも主人公の息子役をやってましたよね。今回も、“特性”を持った難しい役。それを軽やかに演じて、画の中に存在できている。すごく素敵な役者さんだなと思います。

――中野役については、実際に演じてみて共感できるところがありましたか？

ありましたね。お金で苦労したっていうのは……まあ、今でもしてるんで。

――いやいや……。

いえいえ。物価高もあって、昔より今のほうが苦労してるんじゃないかなっていう気はしますけどね。

――2000年にデビューされ、今年は芸能生活25周年。振り返って、転機になった作品や人との出会いはありますか。

作品は、ドラマ『SP 警視庁警備部警護課第四係』（07年／フジテレビ）かな。ずっとバイトしながら役者をやってきて、「これでバイトを辞められる」と思いました。結局、辞めて、もう1回やることになりましたけど。そういう意味で言ったら、転機じゃなかったのかな。でも、「見てました」ってよく言われるし、認知度がちょっと上がったような。ただ、それで爆発的に上がったかっていうと……　まあ、ここは『SP』と言っといたほうが収まりがいいですよね（笑）。

人との出会いで言うと……あの人もこの人もって、いっぱいありすぎて。もしかしたら、そういう人が多いっていうのが、僕の取り柄かもしれないですね。『拾われてきた男』なんで（笑）。